バックパッカーは可視化されなくなった
堀江貴文(以下、堀江) ヤマザキさんが世界に出たのは、なぜですか?
ヤマザキマリ(以下、ヤマザキ) 前回も少し話しましたが、私の意志じゃないんですよね。うちは家庭環境が変わっていたんです。祖父は外国に長く住んでいたので、母親が当時としてはタガの外れた教育を受けていました。
彼女は音楽家でしたが、昭和ひと桁生まれで、戦時中で留学が叶わなかったと。だから娘の私が絵を志すってわかった瞬間、「西洋美術をやりたいなら日本の外でやりなさい」と、14歳で海外に放り出されました。
私のいまの生き方は基本的に、母の無謀さに仕込まれた部分があります。
堀江 そんな無茶ぶりでも、やっぱり親の言うことは聞いちゃうんですね。
ヤマザキ だって言い返してヒステリックになられてもイヤだし(笑) 。14歳の女の子が海外でひとり旅とか、普通ならあり得ないでしょう。
母は自分自身が日本社会に馴染まなくて苦労しているところがあったんですね。それで、私がちょっと“変わっている”ことにも早いうちに気づいたから、あえて外に出させてみたんじゃないかな。「学校だけが勉強じゃない、旅をしろ。世界は日本だけじゃない」って、いうのが彼女の唯一の子育て論。あとは全く放ったらかしにされてましたから。
堀江 いまはヤマザキさんが出られていた時代よりも、さらに出やすくなってますね。世界はつながっている感覚が当たり前になってきた。
ヤマザキ めっちゃつながってますよね。堀江さんは外に出ることにまったく抵抗はなかったんですか?
堀江 僕は初めて海外に出たのは、すごく遅いんです。25歳のとき。うちはごく普通の日本の中流家庭でしたから。
ヤマザキ 私たちの世代の若い時分って、スネ夫みたいな人しか海外には行かないイメージがありましたよね。
堀江 そうかな(笑)。でも大学生のときは、東南アジアとかにガンガン行ってるバックパッカーはいましたよ。
ヤマザキ ボロボロの格好をしたバックパッカーは海外で、もう滅多に見かけないですね。ひと昔前は各国の主要駅に、大きなバックパックとくるくる巻いたシュラフを背負ってる、若いバックパッカーが、いっぱいいましたけど。
堀江 それは、シェアエコノミーのおかげだと思いますよ。民泊できるAirbnbとか、安くていい宿泊施設が増えたので、バックパックを背負う必要がなくなってきた。単純に、テクノロジーが進歩したということではないかと。
ヤマザキ なるほどね。飛行機代も安くなったし。
堀江 LCCとAirbnbを使えば、僕らの時代よりはるかに安く、海外旅行できますよ。あと、ファストファッションの流行もあります。安くていい服が、どの国でも買える。いかにもバックパッカーな感じの汚れた服装の人が減りました。
ヤマザキ バックパッカーはいるけど、普通の旅行者と見分けがつかなくなったということですね。
堀江 そう。食べ物も安くなってますしね。かつての猿岩石みたいなスタイルでなくても、安上がりで何十ヶ国も回れるんですよ、いまは。
ヤマザキ 今の若い世代は、そもそも自分探しじゃないけど、アンビシャスな旅を目指していないんですかね。ヨーロッパに行ったら歴史とか政治背景とか、世界を見てあらゆるものを吸収なしきゃ! っていう貪欲さじゃないというか。もっと手軽に、フラッと行くような感じなのかな。
堀江 だと思います。旅の基本は、気軽に手軽に、ですよ。
逆に日本は、昔はどの国からもアクセスが悪かったけれど、いまはびっくりするぐらい手軽なノリで、外国人が来ています。ちょっと前に黒部ダムへ行きましたが、日本人でもなかなか行かないような観光地なのに、ものすごいたくさん外国人が来てましたね。
ヤマザキ そうですよね! 温泉地にも外国人観光客がいっぱい。特に中国人。登別温泉の地獄谷クマ牧場は、歩いていると中国語しか聞こえてこなかったですよ。
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