僕の部屋
僕「ユーリの数当てマジックで《数を当てる方法》は簡単だよね」
ユーリ「そーだね」
これから、あなたの好きな日を当ててみせましょう。
何月でもかまわないので、好きな日の数を思い浮かべてください。
・2月14日が好きなら→14
・3月16日が好きなら→16
・12月24日が好きなら→24
思い浮かべたら、5枚のカードのうち、 《その数が出てくるカード》だけをすべて表にしてください。
《その数が出てこないカード》は裏返しに伏せてください。

僕「数を当てるには、表になったカードの左上の数を足すんだろ?」
ユーリ「そーそー、それだけで思い浮かべた数を当てられるんだよー」
相手が選んだカードの左上の数を足せば、相手が選んだ数になる。
相手が $21$ を選んだときのようす
相手が $12$ を選んだときのようす
僕「そうだね。《数を当てる方法》はそれでいい。理屈はわからなくてもマジックはできる。 でも、《数が当たる理由》がわからないとつまらない」
ユーリ「まーね」
僕「こんなふうに対応表を作れば、《 $5$ 枚のカードの置き方》と《 $0$ ~ $31$ の整数》とを対応づけられる」
《 $5$ 枚のカードの置き方》と《 $0$ ~ $31$ の整数》の対応表(×は裏、○は表)
ユーリ「うん」
僕「対応表が作れるんだから、 $0$ ~ $31$ の範囲のどんな整数でも《 $5$ 枚のカードの表裏の置き方》で表せる」
ユーリ「そーだね。この対応表に書いてあるもん」
僕「実は、理屈がわかってしまえば、対応表を見なくても、 $0$ ~ $31$ の範囲の整数がどんな表裏の置き方になるかはわかるんだ」
ユーリ「カード見ればわかるよ」
僕「カードを見なくてもわかる。そのためにはカードの《左上の数》を研究すればいい。《数を当てるときに足す数》がこれなんだから」
ユーリ「数を研究するってかっこいいにゃ!」
数当てマジックで《数を当てるときに足す数》
僕「さあ、この数が何なのか、わかるかな?」
$$ 16 \qquad 8 \qquad 4 \qquad 2 \qquad 1 $$ユーリ「わかるよ。偶数だ!……んにゃ、ちがう。 $1$ があるか」
僕「でも、いいセンいってる。これはね《 $2$ の冪乗》というんだよ」
ユーリ「 $2$ のべきじょう?」
$2$ の冪乗
僕「そう。 $2$ の冪乗は、 $2$ を何個か掛けてできる数だね。 $2$ の累乗ということもあるよ。 $2$ を $n$ 個掛けるなら、 $2^n$ と書く」
$$ \begin{array}{rclcl} 16 &=& \underbrace{2 \times 2 \times 2 \times 2}_{\text{ $4$ 個}} &=& 2^4 \\ 8 &=& \underbrace{2 \times 2 \times 2}_{\text{ $3$ 個}} &=& 2^3 \\ 4 &=& \underbrace{2 \times 2}_{\text{ $2$ 個}} &=& 2^2 \\ 2 &=& \underbrace{2}_{\text{ $1$ 個}} &=& 2^1 \\ \end{array} $$
ユーリ「あれ? でも $1$ は? $1$ は $2$ を掛けてできてるわけじゃないよ?」
僕「《 $2$ の $0$ 乗》は $1$ に等しいと定義する」
ユーリ「てーぎ?」
僕「こう決めたってこと」
$$ 1 = 2^0 $$ユーリ「 $0$ 乗……?」
僕「 $2^0$ は $1$ と定義されてる。これは指数法則のため。まあ、むりやり《 $0$ 個掛ける》と見なすこともできるけどね。 こんなふうに頭に $1$ を掛けて考えれば」
$$ \begin{array}{rclll} 16 &=& 1 \times 2 \times 2 \times 2 \times 2 & = 2^4 & \text{( $2$ を $4$ 個掛けた)} \\ 8 &=& 1 \times 2 \times 2 \times 2 & = 2^3 & \text{( $2$ を $3$ 個掛けた)} \\ 4 &=& 1 \times 2 \times 2 & = 2^2 & \text{( $2$ を $2$ 個掛けた)} \\ 2 &=& 1 \times 2 & = 2^1 & \text{( $2$ を $1$ 個掛けた)} \\ 1 &=& 1 & = 2^0 & \text{( $2$ を $0$ 個掛けた)} \\ \end{array} $$ユーリ「ほほー」
僕「さて、改めて……この数当てマジックの鍵になる数は《 $2$ の冪乗》だ」
ユーリ「うん」
僕「数当てマジックをするためには、《 $16, 8, 4, 2, 1$ のどれかを足し合わせれば、 $0$ ~ $31$ のどんな整数でも作れる》ことがポイントになる。 でないと《 $5$ 枚のカードで、 $0$ ~ $31$ の整数を表す》ことができない」
ユーリ「ふんふん」
僕「実は、与えられた $0$ ~ $31$ から、どのカードを表にすればいいのかは、《計算》すればわかる」
ユーリ「けーさん?」
計算で、どのカードが表にすればいいかがわかる
僕「たとえば $21$ をカードで表すとしよう。そのために《割ってあまりを求める》という計算を繰り返すんだ」
ユーリ「割り算するってこと?」
僕「うん。繰り返して割り算する。 $21$ で具体的にやってみよう。 $21$ を $2^4$ つまり $16$ で割ると「商は $1$ 」で「あまりは $5$ 」だね」
ユーリ「商って何だっけ」
僕「割り算の答えだよ。 $21$ を $16$ で割ると、「 $1$ あまり $5$ 」になる」
$$ 21 \div 16 = 1 \text{あまり} 5 $$ユーリ「うん」
僕「次に《あまりの $5$ 》を今度は $2^3$ つまり $8$ で割る。そんなふうに、《割ってあまりを求める》という計算を繰り返すんだ。そして商に注目する」
$$ \begin{array}{rcll} 21 \div 16 &=& \underline{1} \text{あまり} 5 & \qquad \text{ $21$ を $16$ で割ると「商は $1$ 」で「あまりは $5$ 」だ。} \\ 5 \div 8 &=& \underline{0} \text{あまり} 5 & \qquad \text{ $5$ を $8$ で割ると「商は $0$ 」で、「あまりは $5$ 」だ。} \\ 5 \div 4 &=& \underline{1} \text{あまり} 1 & \qquad \text{ $5$ を $4$ で割ると「商は $1$ 」で、「あまりは $1$ 」だ。} \\ 1 \div 2 &=& \underline{0} \text{あまり} 1 & \qquad \text{ $1$ を $2$ で割ると「商は $0$ 」で、「あまりは $1$ 」だ。} \\ 1 \div 1 &=& \underline{1} \text{あまり} 0 & \qquad \text{ $1$ を $1$ で割ると「商は $1$ 」で、「あまりは $0$ 」だ。} \\ \end{array} $$ユーリ「うん? ややこしーなー」
僕「商を上から読んでごらん」
ユーリ「 $1, 0, 1, 0, 1$ だけど?」
僕「 $21$ をカードで表すと、表、裏、表、裏、表になる。ちょうどこれは $1, 0, 1, 0, 1$ というパターンに対応する」
《カードの表裏》と《 $1$ と $0$ 》の対応( $21$ の例)
ユーリ「おおっ! 計算すればわかるって、そーゆーことか! ユーリ、他の数でやってみる!」
僕「 $12$ でやってごらんよ」
ユーリ「うん!」
$$ \begin{array}{rcll} 12 \div 16 &=& 0 \ldots 12 & \qquad \text{ $12$ を $16$ で割ると「商は $0$ 」で、「あまりは $12$ 」だにゃ。} \\ 12 \div 8 &=& 1 \ldots 4 & \qquad \text{ $12$ を $8$ で割ると「商は $1$ 」で、「あまりは $4$ 」だにゃ。} \\ 4 \div 4 &=& 1 \ldots 0 & \qquad \text{ $4$ を $4$ で割ると「商は $1$ 」で、「あまりは $0$ 」だにゃ。} \\ 0 \div 2 &=& 0 \ldots 0 & \qquad \text{ $0$ を $2$ で割ると「商は $0$ 」で、「あまりは $0$ 」だにゃ。} \\ 0 \div 1 &=& 0 \ldots 0 & \qquad \text{ $0$ を $1$ で割ると「商は $0$ 」で、「あまりは $0$ 」だにゃ。} \\ \end{array} $$僕「どう?」
ユーリ「うんっ! 商は $0, 1, 1, 0, 0$ になって、カードの裏、表、表、裏、裏とぴったりだ」
《カードの表裏》と《 $1$ と $0$ 》の対応( $12$ の例)
僕「おもしろいだろ?」
ユーリ「うん、おもしろい! けど……なんで商が $1$ になるカードを表にすればいいの?」
僕「たとえば $16$ で割ったときに商が $1$ になるというのはどういうことかを考えればいい。商が $1$ になるというのは $16$ を $1$ 回だけ引き算できるくらいの大きさだってことだね」
ユーリ「えーと、 $21$ から $16$ は $1$ 回だけ引ける大きさだってこと?」
僕「そうそう。でね、《あまり》っていうのは、これより引き算したらマイナスになっちゃうという残りの数だ」
ユーリ「……」
僕「だから、 $16, 8, 4, 2, 1$ の順番に数を割っていくとき、商が $1$ になるところは、それぞれ $16, 8, 4, 2, 1$ の数以上だよ、といってるんだ。だから……」
ユーリ「ねえ、お兄ちゃん! 説明とちゅーで悪いんだけど、ユーリ、わかっちゃった」
僕「そう?」
ユーリ「ワニが出てくるんだ!」
僕「ワニ?」
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この連載について
数学ガールの秘密ノート
数学青春物語「数学ガール」の中高生たちが数学トークをする楽しい読み物です。中学生や高校生の数学を題材に、 数学のおもしろさと学ぶよろこびを味わいましょう。本シリーズはすでに14巻以上も書籍化されている大人気連載です。 (毎週金曜日更新)