ここは東京、西新宿。医療器具メーカー「ドブ板メディカル株式会社」に今、ノリにノッてる男がおりました。
屑谷先輩「おい陽太、これ明日までにやっておけよ」
ドブメディの中堅営業、屑谷(クズタニ)先輩(30歳)です。
陽太「あ、はぃ~」
と、どさっと資料を渡されて情けなく笑うのは、3年目営業の出来内陽太(デキナイヨウタ)です。陽太は新卒の時からこの屑谷先輩にお世話になっているので、なかなか頭が上がらないのでした。
屑谷先輩「じゃあ俺、これから外出して、夜は接待行って直帰だから」
それだけ言うと、屑谷先輩は颯爽とオフィスを出ていきました。
出ていったのを見届けると陽太は、
陽太「ふわぁぁ……おかげでまた残業だよぉ……」
とため息をつきました。
河合さん「だったら断ればいいじゃないですか」
そう言ってくるのは、向かいの席の美女、河合さんです。
陽太「そんなこと言ってもぉ……」
話しかけられてもじもじする陽太は、ちょびっとこの河合さんにフォーリンラブなのでした。
河合さん「屑谷さん、最近なんだかご機嫌ですよね」
陽太「あ、河合さんもそう思う? 僕もそう思うんだ。何かあったのかな?」
河合さん「私が思うに、あれは恋ですね」
陽太「恋!?」
河合さんの言葉に陽太は目を丸くしました。
河合さん「屑谷先輩はカノピッピができて、仕事へのモチベーションを取り戻し、ノリノリで働いているのではないでしょうか」
陽太「もう、河合さんがカノピッピって言葉を使うのも驚きだけど、そもそも「恋」という概念を知っていること自体、僕は衝撃だよ」
河合さん「出来内さん、私をロボットか何かだと思っていませんか……」
陽太「あはは、ごめんごめん」
そう言いながら陽太は、屑谷先輩に渡された資料を眺めました。
これを終わらせても、またあれが違うとかこれが違うとかぐちぐち言われると思うと、うんざりしてきます。
はあっと陽太は、もう一度ため息をつきました。
陽太「確かに屑谷先輩は仕事ができるけどさぁ、いくら仕事ができても、僕は屑谷先輩みたいにはなりたくないなぁ」
河合さん「え? なんでですか?」
陽太「だって、すごく細かいし、ねちねちしつこいし、人の嫌なところついてくるし、自分が面倒くさいと思う仕事は全部こっちに回してくるし、ちょっと人間としてどうかなって思うよ」
陽太の言葉に、河合さんは首をかしげました。
河合さん「仕事に人間性は関係ありませんよね?」
Oh……
陽太は河合さんとの間に、激しい温度差を感じるのでした。
陽太「仕事に、人間性って大切ですよねぇ」
お昼休みの医務室で、陽太は困ったように笑いました。
ずんずん先生「大切と言えば大切で、大切でないといえば大切でない」
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