共和党も使っている、「世論を操作する言葉」とは?
1997年、共和党の名高い世論調査専門家フランク・ランツが、222ページの「爆弾」を落とした。「21世紀のことば」と題するその覚え書きは、自党の政治家が取り上げるべき話題から、有権者に言うべきこと、言うべきでないことまで、すべて網羅していた。
たとえばランツは、連邦政府を批判するときには「政府」ではなく「ワシントン」という単語を使うべきだと提案した(人々は一貫してワシントンとその怠慢を嫌っているが、地元の政府は好きだから)。彼はまた、党の下院議員が「遺産税」を「相続税」と呼ぶことを推奨した。世論調査によれば、遺産税と相続税は同一のものなのに、相続税のほうが不公平と考える大衆が10パーセントも多くいるからだ。ランツの2007年の著書『効き目のあることば』の副題にあるように、「大事なのは、あなたが何を言うかではなく、人々が何を聞くか」なのだ。
政治的なコミュニケーションに対するランツの取り組み方は有名だ。クライアント(おもに州や連邦の一流政治家)のために、定期的にフォーカスグループで調査し、何種類ものフレーズを試して、もっとも感情が伝わりやすいものを見つける。「(ジョージ・)オーウェル的」という単語を、自由社会の仕組みを破壊するという意味ではなく、簡潔明瞭という意味に定義し直すような極端な手法もときに用いる。共和党員は、ランツはすばらしい戦略家だと思うだろうが、民主党員なら、大衆操作の方法を駆使する悪党と見なしそうだ。
メディアも使っている「議題設定」テクニック
相手の思考のなかである話題を目立たせ、重視させて、その話題が出るたびに注意を払わせることを「議題設定」という。ここではっきりさせておきたいのだが、議題設定のために話の内容を操作するのは、フランク・ランツだけではない。どちらの党でも、というより、ほとんどあらゆる国のあらゆる政治過程でおこなわれていることだ。政治的な立場はともかく、ランツは、人々の注目をどこにどう向かわせるかという点について、単純なことばの置き換えにも劇的な効果があることを証明した。そういうことばをニュースの最初に持ってくることで、政治家は有権者の心に強い印象を残すのだ。
テレビをつけて、どこかのニュースチャンネルを見てみれば、毎日それが起きているのがわかる。CNN・ドットコムのサイトを開くと、ウクライナやタイでの暴動や抗議活動といった、グローバルな影響をもたらすニュースの代わりに、また何かをやらかしたセレブの逮捕がトップニュースになっていて、重要性に関する人々の認識が操作されている。それは自己実現的な予言だ——メディアがニュースにすればするほど、大衆はさらにくわしい情報を知りたがり、ニュース自体が結末を迎えるか、みんなが関心を失うまで続く。
「議題設定」は、人々の頭のなかにある特定の話題の重要性や顕著さを変えることだ。それをもっとも頻繁にやるのがメディアである。
2014年、ニュージャージー州知事のクリス・クリスティが、再選支持を拒んだ市長への腹いせにジョージ・ワシントン・ブリッジの車線を制限した。大渋滞を引き起こしたこの事件では、関係者のメールが公開されるなり、MSNBC(左派のケーブルニュース局)とCNNが142分間もの大々的な特集を組んだ。同日、フォックス・ニュース(右派のケーブルニュース局)はわずか14分30秒しか報じなかった。さて、どちらの視聴者がこの事件を忘れやすいと思います?
人は「同じウソ」を何度も聞かされると「真実」だと思ってしまう
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