ヤフーCEOがクビ! 学歴詐称は日本だけじゃない

こんにちの情報社会では、ビジネスや人生の成否は「人々の『注目』をどうコントロールするか」次第でもあります。その第一人者として著名なのが、元ITジャーナリストで現在はベンチャー投資家として投資先のシリコンバレー企業に「注目コンサル」を行うベン・パーさん。
本連載では新刊『アテンション』から有益な助言をご紹介していきます。初回は「学歴詐称」と「炎上対策」。詐称や炎上がはびこるのは米国も同じなようで……。

超人気政治コメンテーターの学歴詐称

数年前、エリザベス・オバジといえばワシントンの政界で人気急上昇中の人物だった。26歳の若さでウォールストリート・ジャーナル紙やアトランティック紙といった一流紙の論説を執筆。大物上院議員ジョン・マケインがシリア内戦にかんする彼女の論説を引用しさえした。

9.11の直後に高校の同級生がアラブ人少年をいじめているのを目にして以来、オバジは中東問題に強い関心を持つようになった。米ジョージタウン大学ではアラビア語を専攻。卒業後、数年をエジプトのカイロですごし、同大学に戻ってアラブ研究の修士と博士の両学位の取得をめざすかたわら、戦争研究所(ISW)のインターン生として働いた。翌年、彼女はISWのアナリストになった。

オバジにはもうひとつ仕事があった。インターンとして働く以外に、シリアのアサド大統領に反対する穏健派を擁護する非営利団体、シリア緊急タスクフォース(SETF)で働いていた。それでシリアへの行き来が可能となり、オバジはその道の専門家と見なされるほど頻繁にシリアを訪れた。

当然ながら、ここでオバジの話が終わったら、それほど注目されはしなかっただろう。その専門知識でオバジは、政治サークルやメディアの寵児となった。テレビ番組にレギュラー出演し、シリアの地上作戦に関して、あっという間にワシントン第一級の専門家になった。2013年、彼女は博士論文の最終審査を首尾よく終えたと言っていた。

ただ、ひとつだけ問題があった—オバジはジョージタウン大学アラブ研究科博士課程の学生ではなかったのだ。入学を許可されてもいなかった。

オバジの信頼性の一端は、ジョージタウン大学と連携した調査と、取得見込みの博士号にあった。しかし、どちらも真実ではなかった。ウォールストリート・ジャーナルに掲載された2013年8月のオバジの論説は大評判となり、マケインやジョン・ケリーら大物議員が引き合いに出すほどだったが、それからメディアやISWがオバジの学歴詐称を突き止めるのに長くはかからなかった。数日後、オバジはISWを解雇された。彼女の調査結果の信頼性は煙のように消え失せた。

学歴を詐称したのは、もちろん彼女が初めてじゃない。もっと真剣に受け止めてもらいたくて、なったことのない肩書や取ってもいない賞をつけ足したい誘惑に駆られる人もいるだろう。しかし、Google検索時代のいまほどウソを暴くのにたやすい時代もない。

ヤフーCEOも学歴詐称でクビに

Yahooの元CEOスコット・トンプソンは、そのことを痛感している。VISAで働いたのちにPayPal社長として成果をあげ、2012年、前CEOのキャロル・バーツが解任されたあとのYahooを復調させるために雇われた。

しかし、特許侵害でフェイスブック相手に訴訟を起こしてからすぐに、ある「もの言う投資家」がトンプソンの学歴にウソを発見した。会計学とコンピュータ・サイエンスの両学位をストーンヒル・カレッジで取得したとのことだったが、実際にはコンピュータ・サイエンスを学んだことがなかった。何千人ものエンジニアを擁するテクノロジー企業を運営するには、これは重大なウソだ。数週間後、トンプソンは解雇され、元Googleのスター幹部、マリッサ・メイヤーが後釜に入った。

注目されればウソは必ずばれる

注目されれば、かならずあれこれ調べられる。ほとんどの資格や学歴がオンラインで検証できるいまの時代だから、合点がいかないことは何であろうと調べられ、たちどころに暴かれる。信用を失くしてからまた這い上がることもできなくはないが(オバジは最終的にマケインの立法担当秘書になった)、その過程でたくさんのつながりを反故にしてしまう。それより、まちがった注目にさらされるほうが問題だ顧客は「メッセージ」に集中せず、「当人」に注目する

オバジとトンプソンはウソで評判を落とした。これは評判を傷つけるふたつのやり方のうちのひとつだ。信用される根拠となった学歴を詐称すれば、ゆくゆくは誰かが公衆の面前でそのミスやウソ、省略したことで結局ウソになったものを指摘する。オバジ、トンプソン、それに多くが苦い経験をしてこの教訓を学んだ。最良の行動モデルは、つねに真実を伝えることだ。それも早いうちに。

それでもまちがいを犯したときの次善策は、迅速かつ心からの謝罪だ。下から2番目に悪い策は、待つこと—ソーシャルメディアのおかげで、放っておけば事態が「収束する」時代は終わった。それでも、ウソを隠すためにウソを重ねるほど悪いことはない。元連邦議会議員のアンソニー・ウェイナーが自身の局部の画像をツイートして、それがハッカーの仕業だと強弁したときに学んだように。かりにもし、ただちに謝罪して二度としないと誓えば、人々は彼をゆるしたかもしれない。

濡れ衣で炎上したら、あなたが真っ先にすべきこと

評判を傷つけるもうひとつの方法がある。「誤解」だ。不正確な情報や誤解にもとづいて、誰かが別の誰かを批判する。

ぼくの身に起こったことを話そう。

大手ニュースサイトMashableに在籍していたころ、ぼくはカレントTV(現アル・ジャジーラ・アメリカ)のローラ・リンとユナ・リーというふたりのアメリカ人ジャーナリストについて記事を書いた。その数カ月前に北朝鮮政府がふたりを捕え、氷上を「乱暴に引きずり」ながら陸軍基地に連行し、尋問したのだ。ふたりのジャーナリストは、解放されてから初の声明を公開したばかりだった。ぼくは記事を書き、両名の長い声明文をまるごとシェアした。その声明文はカレントTVのウェブサイトで見つけたものだった。ほかのサイトも、ロサンジェルス・タイムズ紙も同じことをした。

記事を公開してからほどなく、ある有名ブロガーが、ロサンジェルス・タイムズからの盗用だとぼくを公然と非難した。彼はロサンジェルス・タイムズのウェブサイトを見て、ぼくが無断で声明を借用したと思いこんだらしい。

ぼくには3つの選択肢があった。1、その主張を無視する。2、個人的にそのブロガーにメールを送って状況を説明する。3、ぼくのジャーナリストとしての品位を落とすガセネタをこれ以上広めさせないために、公然と立ち向かう。ぼくはやり返すことにした—すばやく、大っぴらに。TwitterとFriendFeed(2009年にフェイスブックに買収された)に、くだんのブロガー宛ての返答を投稿した。それから問題点がすっかり説明されるまで、両SNS上で事細かに、1時間以上話し合った。

結果、誤解は氷解し、ぼくの評判は再度確立された。われわれの友情にひびが入ることはなかった。

自分の人格が不当に攻撃されているという確信があるなら、拡散する情報にはすばやくかつ慎重に、事実をもって応酬するのが最善策だ。誤解されたまま時間がたてば、そのぶん人々の記憶に残る可能性が高まる。最終的には汚名を払拭できたとしてもだ。大事なのは、できるだけ早く応酬すること、事実を明確に述べること、非難する人を攻撃する手段をとらず、評判を守ることに注力することだ。非難している人ではなく、非難そのものに集中する。

評判はあらゆることに波及する。大々的に信用を落とすと、誰もその人のアイデアに注目しなくなる。信用と信頼性を維持することは、あなたの顧客に影響を与え、注目を高め、集団から頭ひとつ抜け出すのに不可欠だ。高名な投資家ウォーレン・バフェットのことばが、それを絶妙に言い表している。「評判を確立するのには20年かかるが、その評判はたった5分で崩れ去る。そのことを頭に入れておけば今後の生き方が変わるはずだ」

次回は3/28更新予定


「アテンション」を制す者が、夢も市場も手に入れる時代がやってきた—。 早くもベストセラー! 日本語版解説は小林弘人さん(インフォバーンCVO)です。

アテンション

『アテンション』ベン・パー

はじめに これからは、「注目」を制す者が夢も市場も手に入れる
1章 注目の3段階 注目には「即時」「短期」「長期」がある
2章 自動トリガー 「色」や「シンボル」で人間の無意識に訴えかける
3章 フレーミング・トリガー 「おなじみの感覚」を演出する
4章 破壊トリガー 「驚き」「単純さ」「重要性」のセットで畳みかける
5章 報酬トリガー 「相手が求めているもの」を可視化する
6章 評判トリガー 肝心なのは「なにを言うか」より「だれが言うか」
7章 ミステリー・トリガー 「謎」「不確実性」「サスペンス」を提供し続ける
8章 承認トリガー 「認知」「評価」「共感」の3欲求を満たす
おわりに この本のもうひとつの目的
日本語版解説 小林弘人

この連載について

アテンション—「注目」で人を動かす7つの新戦略

ベン・パー

ますます加速する超・情報過多時代。「アテンション(人々の注目)」を制す者が、夢も市場も手に入れる――。元マッシャブルの名物記者で、現在はベンチャー投資家として名だたるシリコンバレー企業に「注目コンサルティング」を行うベン・パーさん。日...もっと読む

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コメント

anythingtsing やっぱり、そうなんだね。 2年以上前 replyretweetfavorite

TotoAkeru 日本には謝罪すらしない人達がいるのですが。 2年以上前 replyretweetfavorite

sizukanarudon ベン・パー@benparr https://t.co/BssspWgxdE 『評判を確立するのには20年かかるが、その評判はたった5分で崩れ去る。そのことを頭に入れておけば今後の生き方が変わるはずだ。』 ウォーレン・バフェット 2年以上前 replyretweetfavorite

tamu_yoshi 高名な投資家ウォーレン・バフェットのことばが、それを絶妙に言い表している。「評判を確立するのには20年かかるが、その評判はたった5分で崩れ去る。そのことを頭に入れておけば今後の生き方が変わるはずだ」 https://t.co/hYWvL0tYcZ 2年以上前 replyretweetfavorite