芥川賞を受賞した本谷有希子さんの記者会見のなかでひときわ光っていた言葉は、
人物を愛して書こうとはいつも心がけている
というもの。ああ、それが秘密だったんだと気づく。本谷作品では主要な人物が、自分自身や身近な相手に激しくかみつくことが多い。内心に渦巻くドロドロとしたものを存分に吐き出す。
なぜそういうことが可能なのか。不思議だったけれど、作者が人物へ注ぐ愛あればこそ、ひどい話をすんなり受け入れられるんじゃないか。
ひどいことを言う人物に共感できるのは、読む側の人のなかにちょっとでも、その人物と同じ要素があるからじゃないですか。ひどいことを言ってしまう気持ちが、どこかでわかるというか。または、そのひどいセリフは自分が言いたいと思っているセリフで、それを代弁してくれてすっとするのかもしれない。逆に、自分のなかにあるイヤな部分が見えてしまうから、わたしの書く人物がどうしても受け入れられないという人もいるだろうと思います。
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