本谷有希子 前編「言葉にならない“なんだか”を探していけば、これから先ずっと書けるかもしれない」

19歳で最初の脚本を書き、20歳で「劇団、本谷有希子」を立ち上げた本谷有希子さん。作家活動と並行しながら、劇団を主催してきましたが、それを休止し、小説に専念して書き上げたのが芥川賞受賞作『異類婚姻譚』でした。しかし、締め切りがない状態で小説執筆に挑んだ当初は、なかなかうまく書けず、60本以上もボツにしたそうです。苦心の末、どのように作品の糸口をつかんだのでしょうか。


ある日、自分の顔が旦那の顔とそっくりになっていることに気が付いた。


『異類婚姻譚』より

 出だしの一行を書いたとき、それまでの60数編とは明らかに違う力を感じたし、「これは最後まで書けるな」とわかったんです。

『異類婚姻譚』がどう生まれたかを尋ねてみれば、冒頭の一文がキーだったという。先に掲げたのがそれだ。

 そのあと第二段落めに、次の文が自分のなかから出てきました。これでもう見失わないっ、ってはっきり思えた。


見れば見るほど旦那が私に、私が旦那に近付いているようで、なんだか薄気味悪かった。


『異類婚姻譚』より

PC内の写真を整理していて、結婚前と最近のものを比べてみると、「私」と旦那の顔が似ていることに気づくのだ。

「なんだか薄気味悪かった」の、「なんだか」というところが大事で。この、なんだかという部分を書いていきさえすれば、絶対だいじょうぶと思えた。小説を書くってそういうことだって。“なんだか”という語に含まれる言葉にならないものに物語を与え、形を成すことが小説にはできるんだ、この、“なんだか”を探していけば、これから先ずっと書けるかもしれない。そんな気がしました。

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異類婚姻譚

本谷 有希子
講談社
2016-01-21

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文学者の肖像

山内宏泰

文学とは、なんなのか。文学者たちは今をどうとらえ、いかに作品に結実しているのか。言葉に向き合う若き作家たちの「顔が見える」インタビューシリーズです。

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コメント

jlmercury 本谷有希子さんの執筆あれこれ、自分はまだなんも書いてないけどめっちゃ分かった。〆切ないと書けない... 四月からの小説教室、頑張りたい。 https://t.co/g8oVwbxOKX 1年以上前 replyretweetfavorite

chaghatai_khan 正しくはこちら。→ https://t.co/P296d0HmuZ 1年以上前 replyretweetfavorite

hirofumi_t なんだか…。 https://t.co/AldRk3pWBL 1年以上前 replyretweetfavorite

sadaaki 本谷さん、めっちゃかわいいな。 1年以上前 replyretweetfavorite