結婚相手が見つからなければ、強制的に動物にさせられる絶望の世界。意外性のあるモチーフで話題をさらった映画『ロブスター』は、第68回カンヌ国際映画祭で審査員賞を受賞した。監督は、ギリシャの映画作家ヨルゴス・ランティモス。日本ではまだ知名度の低い監督だが、評価は高い。本作のヒロインである人気女優レイチェル・ワイズも彼の才能に惚れ込み、みずから出演を希望したという。
作品の舞台となるのは、現代もしくは近未来の架空の土地だ。独身であることが禁じられた社会。独身の男女は人里離れたホテルに監禁され、45日間を共にすごすよう強制されるのだ。期間内に伴侶となる相手が見つからなかった場合、動物にさせられる。ある日妻から離婚を言い渡された主人公は、独身者の集まるホテルへ連行されてしまうのだ。彼は、今後も人間として生きていけるかどうかを賭け、期間内のカップル成立を目指して奔走する。主演は、『ニュー・ワールド』(’05)『マイアミ・バイス』(’06)のコリン・ファレル。
婚姻が義務化した社会で、登場人物たちは恋愛に欠かせないはずの情熱を完全に失っている。考えてみれば当然のことだ。恋が実らなければ動物にさせられる世界で、誰が情熱など抱けるだろうか。そのため彼らの求愛行動は、おのずと生気を欠いたロールプレイにならざるをえない。ホテルに集められた男女の行動は、「かつて世の中には『恋愛』という酔狂な風習があったらしい」という考古学の実践のようである。バンド演奏にあわせて踊る男女のぎこちない足取りが虚しい。
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