好きなことが見つからなかったら?
津田大介(以下、津田) 好きなことが見つからないと悩む人には、どんなアドバイスをされていますか? これも、僕が若い人からよく聞かれることなんですが。
出口治明(以下、出口) そもそも、生きているうちに自分が本当にやりたいことが見つかる人は、そんなにいないと思います。いま世の中にいるおじさんたちの中には、たまたま大学の先輩に呼ばれて、ステーキをごちそうになったからその会社へ入社を決めた、という人も多いと思います。僕は日本生命に入社したのですが、経緯は似たようなものです。
津田 それはまた適当な(笑)。
出口 でも、入ってみたらなかなかおもしろくて、定年近くまで働くことになりました。人間はそういう動物なのです。ちょっとした出会いや偶然をベースに生きているのが人間という動物だとわかっていれば、好きなことがわからないからと悩むこともなくなります。自分のやりたいことがわからないと悩む人は、極論すれば不勉強です。
津田 これは強烈。不勉強、ですか。
出口 「他の人はやりたいことがわかっているはずだ」というありえない前提を置いているから、自分だけ大学4年生になったのにやりたいことがわからないなどと悩むのです。でも、その前提が間違っているのです。ほとんどの人が、実はやりたいことなんてわからないのです。
津田 僕は、自分がいちばんやりたいこと、一生かけてやりたいことがはっきりとわかったのが、2011年に起こった震災のときでした。錯綜する情報の整理をしたり発信したりするなかで、自分が一生やるべき仕事はメディアづくりだってわかった。これをやるために、今まで自分は仕事の流動性を確保しながら生きてきたんだなって。なんで頑として就職せずやってきたのか自分でも理由がわかってなかったんですけど、それによって気づかされた。それが、38歳のことです。
出口 ええ。
津田 よく考えてみたら、大学生で好きなことが見つからないのはあたりまえ。20代のうちに見つかる方がラッキーって話ですよね。30代になっても見つからなくて当然で、40代のうちに見つけられればいいんじゃないかって思いますね。
出口 僕も、若い頃は何がやりたいのか、全くわかりませんでした。生命保険業界に興味があったわけでもなく、司法試験に落ちてしまって、日本生命以外行くところがなかったという事情もありました。たまたま日本生命だけ滑り止めで友人に連れられて受けていたので、ここに行くしかないなと。
津田 浪人して司法試験にもう一度挑戦しようとは思わなかったんですか?
出口 ちょうど弟が大学に入ったときで、親に2人分の学費と仕送りは出せないと言われましたので。
津田 なるほど(笑)。日本生命時代、転職を考えたことってありました?
出口 いや、僕が働いていた頃はおもしろい時代でしたから。80年代は「ザ・セイホ」といわれ、海外投資を積極的に行なったり。おもしろい仕事をたまたま与えられて、なにも考えないで働いているうちに40代後半になってしまった……という感じでしたね。
還暦ベンチャーはこうやって生まれた
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