日本ほどラッキーな国はない!
津田 日本の若者は割を食っていると言われていますが、本書で出口さんはその意見をバッサリと切り捨てています。若者と仕事に関しても伺いたいのですが。
出口 数字で見たら、日本ほど若者にとってラッキーな国は他にはありません。なにがラッキーかと言えば、人口構成です。引退しつつある僕ら団塊世代は1学年に200万人以上いますが、新社会人は100万人程度。この国は、誰が計算しても2030年までに労働力が800万人ほど不足します。
津田 そうなんですよね。
出口 もしこれが逆で、労働力が800万人以上余る国だとしたら大変です。でも、足らないということは、普通に働く意欲があって、健康で、読み書きパソコンができたら、職種さえいとわなければ飢え死にすることはまずありません。非常にラッキーな国だと思います。
津田 日本の未来が心配だという若者からは、政治家は高齢者のほうばかり向いていて、若者は搾取されるばかりの「シルバーデモクラシー」だという声が挙がっています。最近だと、象徴的なのが高齢者向けの定額給付。所得の低い年金受給者には3万円の給付があって、一方で子ども手当の3000円をカットするなんてあり得ない、と話題になっていましたね。
けれど、見方を変えれば、若い人はこれから安定的に職を得られる。ラッキーな時代じゃないかという視点には、僕も目からうろこが落ちました。
出口 それに、産業もまだまだ伸びると思いますよ。たとえば、日本は雨がよく降る国です。水が潤沢ということは農業に向いているはずなのに、農水産物の輸出額はずっと5000億円程度でした。それが2015年には約7500億円まで伸びました。
ここで、世界に目を向けてみましょう。農業でもっとも儲けているのはアメリカです。2番目がネーデルランド(オランダ)の約9兆円。ところで、ネーデルランドは九州より狭いうえに、国土の4分の3が海面下です。それで9兆円を稼げるのであれば、日本は20兆円くらい稼げそうだと思いませんか?
津田 言われてみれば、たしかに。
出口 日本の輸出額が7500億円から5兆円になったら、どうなります? GDPが500兆円だから、それだけで1パーセント余分に成長できるのです。……と、このように考えると、成長の余地は山ほどありますね。
津田 日本の農作物って香港やシンガポールあたりで人気なのに、供給量が全然足りないんですよね。韓国は質こそ低いけど、供給量が多いから人気が出ています。
出口 ある外国人が言っていたことですが、お隣に公害で優良な食糧が不足している豊かな国があるのだから、1個1000円の安全なりんごを売ったら儲かるのではと。
津田 なるほどそれは確かに説得的だ(笑)。まあ、食糧事情で中国やアメリカに貢献して、輸入先としてなくてはならない存在に日本がなれば、それが何よりの「安全保障」になりますしね。
出口 お互い、美味しいゴハンを食べたいから喧嘩なんてやめましょうという話になれば、こんなにラッキーなことはありません。