最初から、人を驚かせ喜ばせたかった|石川俊祐(デザイナー)〈前編〉

やりたいことを実現し、新しい働き方を自分でつくる。そんなパイオニアにインタビューをするシリーズ。第3回となる今回は、Appleのマウスを手がけたことで知られる世界的なデザイン・ファームIDEOで、Design Directorを務める石川俊祐さんに会いに行きました。プロダクトのデザインから、サービス、体験、ビジネスそのもののデザインまで幅広く手がける石川さん。まずは、デザインを学んでIDEOにたどり着くまでのお話です。

ロンドンの芸術学校で、発想をかたちにすることの大切さを学んだ

—石川さんがデザインというものを意識し始めたのはいつだったか、覚えていますか?

 以前、自分の最初のデザイン体験はなんだったんだろうと考える機会があったんです。それで思い出したのが、5歳くらいのときのこと。夏の暑い日に郵便屋さんなど来客があると、ぼくは必ず氷を入れた冷たい水を出していたんだそうです。ぼく自身は覚えてなかったのですが、母親に「あなたはいつもそうしていた」と言われたんですよね。人を喜ばせたい、もてなしたいという気持ちが、人間の生活を軸にしたデザインを考えるということにつながっているのかな、と思います。

—ものをつくることではなく、人を喜ばせることが原体験というのはおもしろいですね。

 ほかのデザインにつながる経験といえば、地元のアート教室に通っていました。親が、ピアノや書道、水泳、サッカー、ソフトボールなど、物心ついた時からいろいろな習い事を体験させてくれたんです。そのなかでも、アート教室のことはよく覚えています。ぼくと先生の二人しかいない教室で、オルゴールをつくったり、ビー玉を転がす迷路をつくったりしていました。

—そこからロンドンの芸術学校に留学するまでは、特にアート系の活動はされていなかった?

  そうですね。ぼくじつは、ロンドンに留学する前、日本でも3ヶ月くらい大学に通っていたんですよ。うちの兄がけっこうなヤンキーで、高校からマニラの戸○ヨットスクールみたいなところに送られてたんです(笑)。その後、彼は起業して、ちゃんと更生するんですけど、それもあって親の期待に自分くらいは応えたいなと思ったんですね。そこで、日本の大学に進学してみました。

—それは美術大学などではなくて、普通の大学ですか。

 はい。たしか、広告関係のおもしろいゼミがある大学を選んだんです。でも、けっきょくそこのゼミには落ちてしまったんですよ。願書のフォーマットが決められていたんですけど、それを完全に無視して自分がクリエイティブだと思う書類をつくって出した。そうしたら、普通に「フォーマットが違います」ってはねられたんです。そりゃそうですよね(笑)。そういうことは、今でもよくあります。昔から、型にはまるのが苦手だったんだなと。

—そこから、どういう経緯でロンドンに留学することになったんですか?

 親孝行のつもりで日本の大学に入ったものの、ぼくとしては留学したいという気持ちが抑えきれなかった。それで、勝手にロンドンの大学を受けて、受かってから親に事後報告しました。入学まで1年くらい時間があったので、ひたすらバイトをして留学の費用を稼ぎました。そして、セントラル・セント・マーチンズというロンドン芸術大学のなかのカレッジのひとつに入学したんです。1クラス60人くらいで、約30ヶ国から人が集まっていました。宗教も、食事の作法も、トイレの使い方もぜんぜん違うんですよ。みんな違う人間だということを、否応なしに実感させられる。そうすると、楽なんですよね。自分らしくいられる。違うのが当たり前なら、無理に合わせなくてもいいや、と思えたんです。

—大学でどんなことを学びましたか?

「自分が考えたことで、まだそれを誰もやっていなければ、自分が第一人者になれる」ということでした。誰もやっていないことをやると、みんなに尊敬される、認められるという文化がありました。デザインがいいとかわるいとか、かっこいいとかダサいとか置いておいて、とにかくつくってみる。そして世の中に出してみる。そうしたら、思いもよらない反応が返ってくるものなんです。例えば、同級生に、デニム生地を使った色が経年変化するテーブルをつくった同級生がいました。アイデアだけ聞くと、「え、何がいいの?」とピンとこなかったんですけど、実物を展覧会に出したらリーバイスから声がかかった。やってはじめて何かが起こる、という環境がありましたね。

デザインしていたものが、iPodによって一掃された衝撃

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consaba 石川俊祐「なんのためにあるのか、体験自体を新しくできないか、そういう俯瞰の目をもちながら、細部をデザインできるデザイナーであらねばならない」iPodが出て、ぼくが担当していた分野の機器が、全部なくなりました。(文:崎谷実穂) https://t.co/cd62alDFac 4年弱前 replyretweetfavorite

yaiask IDEOのデザイン・ディレクター石川俊祐さんのインタビューです。iPodのような新しい体験が登場すると、個々の商品の細部のデザインは意味をなさなくなってしまうんだなと 4年弱前 replyretweetfavorite