哲人が示した、三角柱に折られた紙。青年の位置から見えるのは、三面のうち二面だけだった。そこには「悪いあの人」という言葉、そして「かわいそうなわたし」という言葉が、それぞれ書かれている。哲人によると、思い悩んだ人間が訴えるのは、けっきょくこのいずれかなのだという。そして哲人は、その細い指でゆっくりと三角柱を回転させ、最後の一面に書かれた言葉を提示した。青年の心臓をえぐるような、その言葉を。
アドラー心理学に「魔法」はない
青年 ……!!
哲人 さあ、声に出して。
青年 ……「これからどうするか」。
哲人 そう、われわれが語り合うべきは、まさにこの一点、「これからどうするか」なのです。「悪いあの人」などいらない。「かわいそうなわたし」も必要ない。あなたがどんなに大きな声でそれを訴えても、わたしは聞き流すだけでしょう。
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