幸せになる勇気

青年は驚愕する。「この世界に過去など存在しない!?」

人間は過去の原因に突き動かされるのではなく、現在の目的に沿って生きているとするアドラーの「目的論」。それを頭では理解しつつも、過去の原因の影響も無視できないと、青年は主張します。われわれが過去にこだわってしまうのはいったいなぜなのでしょうか? 100万部を突破したベストセラー『嫌われる勇気』待望の続編『幸せになる勇気』より、第一部を特別掲載いたします。

 アドラー心理学の鍵概念であり、その理解においてもっとも困難を極める「共同体感覚」。哲人はそれについて「他者の目で見て、他者の耳で聞き、他者の心で感じること」だと言う。そして、そこには共感という技術が必要になり、共感の第一歩は「他者の関心事」に関心を寄せることだと言う。理屈としては、理解できる。しかし、子どものよき理解者になることが、教育者の仕事なのか? 結局それは哲学者の言葉遊びではないのか? 「再学習」なる言葉を持ち出した哲人を、青年は鋭く睨んだ。

「変われない」ほんとうの理由

青年 聞きましょう。アドラーの、なにを再学習するのです?

哲人 自分の言動、そして他者の言動を見定めるときには、そこに隠された「目的」を考える。アドラー心理学の基本となる考え方です。

青年 わかりますよ、「目的論」ですね。

哲人 簡単に説明してもらうことはできますか?

青年 やってみましょう。過去にどんな出来事があったとしても、それでなにかが決定されるわけではない。過去のトラウマも、あろうとなかろうと関係ない。人間は、過去の「原因」に突き動かされる存在ではなく、現在の「目的」に沿って生きているのだから。たとえば、「家庭環境が悪かったから、暗い性格になった」と語る人。これは人生の噓である。ほんとうは「他者と関わることで、傷つきたくない」という目的が先にあり、その目的をかなえるために、誰とも関わらない「暗い性格」を選択する。そして自分がこんな性格を選んだ言い訳として、「過去の家庭環境」を持ち出している。……そういうことですよね?

哲人 ええ。続けてください。

青年 つまり、われわれは過去の出来事によって決定される存在ではなく、その出来事に対して「どのような意味を与えるか」によって、自らの生を決定している。

哲人 そのとおりです。

青年 そしてあのとき、先生はこんなふうにおっしゃいました。これまでの人生にどんなことがあったとしても、これからの人生をどう生きるかについて、なんら関係がない。自分の人生を決定するのは、「いま、ここ」を生きるあなたなのだ、と。……この理解で間違いありませんか?

哲人 ありがとう。間違いありません。われわれは、過去のトラウマに翻弄されるほど脆弱な存在ではない。アドラーの思想は「人間は、いつでも自己を決定できる存在である」という、人間の尊厳と、人間が持つ可能性への強い信頼に基づいています。

青年 ええ、わかります。ただ、わたしはまだ「原因」の強さも捨てきれないでいます。すべてを「目的」だけで語るのはむずかしい。たとえば「他者と関わりたくない」という目的があったとしても、その目的が生まれた「原因」だって、どこかにあるはずですから。わたしにとっての目的論は、画期的な視点ではあっても、万能の真理ではありません。

哲人 それもいいでしょう。今夜の対話を通じて、なにかが変わるのかもしれないし、変わらないのかもしれない。決めるのはあなたですから、わたしは強要しません。では、考え方のひとつとして聞いてください。
 われわれは、いつでも自己を決定できる存在である。あたらしい自分を選択できる存在である。にもかかわらず、なかなか自分を変えられない。変えたいと強く願いながらも、変えられない。いったいなぜなのか。……あなたのご意見はいかがですか?

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幸せになる勇気―――自己啓発の源流「アドラー」の教えII

--- - "岸見 一郎" - "古賀 史健"
ダイヤモンド社
2016-02-26

この連載について

初回を読む
幸せになる勇気

岸見一郎 /古賀史健

『嫌われる勇気』から3年後、教師になった青年は再び、哲人のもとを訪ねる。「アドラーを捨てる」という、思ってもみなかった決意を胸にして。本当に「世界はシンプルであり、人生もまたシンプル」なのか。それとも「アドラー心理学」は現...もっと読む

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コメント

travelmizuho アドラーって読んだ事ないけどこんな感じだったんだ。そのとーり。 2年以上前 replyretweetfavorite

skbluegreen なるほど!!!⇒「われわれの世界には本当の意味での「過去」など存在しません。十人十色の「いま」によって色を塗られたそれぞれの解釈があるだけ」[ 2年以上前 replyretweetfavorite

uma_klpe 嫌われる勇気でさらっと表現された目的論に、ぐぐっとフォーカスしていく。ドライに見えるけれど、実はとても優しいのだなあ。> 2年以上前 replyretweetfavorite

mihokomidori 岸見『アドラー心理学』好きだわ~~ われわれの世界には、ほんとうの意味での「過去」など存在しません 2年以上前 replyretweetfavorite