幸せになる勇気

哲人は問う。「もし自分が彼と同じ心、同じ人生を持っていたら?」

「他者の関心事に関心を寄せよ」という哲人の主張に、青年は異議を唱えます。人は自らの主観から逃れることができない以上、それは実現不可能な、ただの言葉遊びにすぎないと。これを受け哲人は、それを可能にする技術であり、態度である「共感」について語りはじめます。100万部を突破したベストセラー『嫌われる勇気』待望の続編『幸せになる勇気』より、第一部を特別掲載いたします。

もしも「同じ種類の心と人生」を持っていたら

青年 先生はもうお忘れになったかもしれませんがね、わたしはよおく覚えていますよ。3年前、いちばんはじめにあなたは、こんなふうに断言された。われわれは誰しも、客観的な世界に住んでいるのではなく、自らが意味づけした主観的な世界に住んでいる。われわれが問題としなければならないのは、「世界がどうであるか」ではなく、「世界をどう見ているか」なのだ。われわれは主観から逃れることはできないのだ、と。

哲人 ええ、そのとおりです。

青年 じゃあ聞きます。主観から逃れられないわれわれが、どうやって「他者の目」や「他者の耳」を持ち、ひいては「他者の心」まで持てるというのです!? 言葉遊びはいい加減にしていただきたい!

哲人 大切なところです。たしかに、わたしたちは主観から逃れることはできません。そして当然、他者になることもできない。でも、他者の目に映るものを想像し、耳に聞こえる音を想像することはできます。
 アドラーは、こんなふうに提案しています。まずは、「もしもわたしがこの人と同じ種類の心と人生を持っていたら?」と考える。そうすれば、「きっと自分も、この人と同じような課題に直面するだろう」と理解できるはずだ。さらにそこから、「きっと自分も、この人と同じようなやり方で対応するだろう」と想像することができるはずだ、と。

青年 同じ種類の心と人生……?

哲人 たとえば、まったく勉強しようとしない生徒がいる。ここで「なぜ勉強しないんだ」と問いただすのは、いっさいの尊敬を欠いた態度です。そうではなく、まずは「もしも自分が彼と同じ心を持ち、同じ人生を持っていたら?」と考える。つまり、自分が彼と同じ年齢で、彼と同じ家庭に暮らし、彼と同じ仲間に囲まれ、彼と同じ興味や関心を持っていたらと考える。そうすれば「その自分」が、勉強という課題を前にどのような態度をとるか、なぜ勉強を拒絶するのか想像できるはずです。……このような態度を、なんと呼ぶかわかりますか?

青年 ……想像力、ですか?

哲人 いいえ。これこそが「共感」なのです。

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幸せになる勇気―――自己啓発の源流「アドラー」の教えII

--- - "岸見 一郎" - "古賀 史健"
ダイヤモンド社
2016-02-26

この連載について

初回を読む
幸せになる勇気

岸見一郎 /古賀史健

『嫌われる勇気』から3年後、教師になった青年は再び、哲人のもとを訪ねる。「アドラーを捨てる」という、思ってもみなかった決意を胸にして。本当に「世界はシンプルであり、人生もまたシンプル」なのか。それとも「アドラー心理学」は現...もっと読む

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コメント

chiiiiikara5296 読んだー! これもまた良書だった。 嫌われる勇気読んでないと内容つかめないと思うけど。 https://t.co/684yH9m1Zf 2年以上前 replyretweetfavorite

fumiken 『幸せになる勇気』、本日増刷がかかり、累計32万部となりました。cakes連載も続いています。→ 2年以上前 replyretweetfavorite

suguruko ”あなたが松明に火を灯し、勇気を、尊敬を、示さなければなりません。(略)あなたの掲げた火は、何百メートルも離れた誰かの目にも届きます。” 2年以上前 replyretweetfavorite