次世代のメンタルトレーニング「マインドフルネス」
ここで「マインドフルネス」の由来について、説明しておきましょう。
最近は、関連書籍も増えてきたので、この言葉を耳にしたことのある人もいるかもしれません。
「マインドフルネス」が現在のように、瞑想を核としたメンタルトレーニングの意味で使われるようになった背景には、瞑想と医学との結びつきがあります。
なかでもマインドフルネスを語るうえで、欠かすことができない人物が、マサチューセッツ工科大学の研究者だったジョン・カバットジンです。
彼は1960年代後半から、分子生物学の研究者としてキャリアを重ねるかたわら、禅、ヨガなどを通じてさまざまな瞑想体験を実践し、その効果を実感していました。そして1979年、カバットジンは、瞑想を伝統的な医療に役立てるアイデアを思いつき、「マインドフルネス・ストレス低減法(MBSR)」というプログラムを開発したのです。
このプログラムは、慢性的な痛みやストレスを和らげることを目的としたもので、参加者は8週間にわたって、毎日最低45分の瞑想をしながらいくつかのセッションに出席し、瞑想についての理解を深めていきます。
カバットジンが開発したこのプログラムは、明らかにそれまでの宗教的な瞑想とは性格を異にするものでした。一口に瞑想といっても、宗派や指導者によって多くの種類があります。カバットジンは、それらに共通する要素として「注意」と「気づき」を抽出し、宗教色を排したプログラムを組み立てたのです。
別の言い方をすれば、彼は、瞑想体験を「標準化」したといえるでしょう。つまり、バックグラウンドに関係なく、誰であろうともこのプログラムに参加すれば、慢性的な痛みやストレスを軽減できるということです。
ところでこの「マインドフルネス」は、次世代のメンタルトレーニングともいわれます。それまでのトレーニングは「考え方」を変えることに注力してきました。しかし人間の考えは、そんなに変わるものではありません。そこで「考え方」ではなく「注意」をどこに向けるのかをトレーニングすることによって苦痛を和らげる方法としてつくられたのが「マインドフルネス」です。
実際、プログラムに参加した患者たちは、痛みやストレスに適切に対処することができるようになりました。もちろん瞑想によって、痛みそのものがなくなるわけではありません。しかし、痛みと上手につきあうことができれば、苦痛や苦悩を軽減することはできるのです。マインドフルネス・ストレス低減法(MBSR)は、少しずつ医療機関に普及していきました。現在は世界中、700以上の診療所で導入されており、ごく一般的なプログラムとして市民権を得ています。
このカバットジンが開発したMBSRが、現在用いられている「マインドフルネス」の発端になりました。
彼は、「マインドフルネス」を「“いまここ”での経験に、評価や判断を加えることなく、能動的に注意を向けること」と定義しています。
この定義の根っこには、当然、東洋的な禅や瞑想がありますが、カバットジンは、あえて宗教色を排するために「マインドフルネス」という言葉を使いました。
修行僧の脳を計測できる時代
じつは、マインドフルネスの普及には、もうひとりの意外な立役者がいます。みなさんもよく知っている人物、ダライ・ラマ14世です。
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