東大駒場寮物語

いま学生寮とは【特別編vol.4】

『東大駒場寮物語』著者で、元駒場寮委員長である松本博文さんと、東大卒で、今はなき東大の女子寮・白金寮に住まれていたBL研究家の金田淳子さんが初めて対談。同世代の二人が、90年代の東大生、そして90年代の東大の学生寮のリアルに迫ります。

共同生活の魅力

担当 依頼しておいてなんですし、打ち合わせで「出すのやめときますか」といった話もたくさんありましたけど……ここまで話を聞いている限り、駒場寮ってやっぱり、なくしてよかったんじゃないかと(苦笑)。

松本 それは元寮生としては、否定しておかないといけないか(笑)。まあ、いろいろあるんだけれど、それを補って余りあるよさっていうのがあったんだよ(笑)。書けないことはいっぱいあるんだけどね。

金田 私、この本を読んで思ったのは、ずいぶんとお行儀のいいことを書いてあるな、と。

松本 これでもね(笑) 焼き犬伝説とか載せてますけど(笑)

金田 実際、ここまで話したように、白金寮も、いやな話も多い。でも、松本さんが言ったようにそれを補って余りある魅力があったから、いたんですけどね。

松本 やっぱりいろんな人のいろんな面に出会えるというのは大きかったですよね。一方で、専門の能力とは別に、人間的に尊敬できない同士が生活をともにしていくというのは、どれだけ大変なことかというのを身をもって知れたのもよかった。たとえ普段仲がよくても、わりとシリアスなケンカをしたりすることもありますし。

金田 私、二人部屋で、最初の同室が40歳ぐらいの、中国からの留学生で、眠りの浅い方だったんです。私は、ずっとそうなんですけれど、いつ寝て、いつ起きるかが、すごく不規則なんですよ。で、3日目ぐらいにその方に言われたのは「何時でもいいから、いつ寝ていつ起きるのかを、定期的にしてください。そしたら私が合わせるから」と。すごい譲歩をしてきてくれたんですけど。でもその譲歩に対して私は、「それだけはできない」と。

担当 ひどい(笑)

金田 かなりひどいよねえ。「そうですか……。だったら仕方ない……」って言われて。パソコンでタッチタイピングの音も響くんで、彼女が寝ているときは、本を読む以外の活動はしないことにしたんです。びっくりしたのは、飴をなめようと思って、パッケージをめりっ、って裂くじゃないですか。その音で彼女が起きてしまった時で。ああ、もうね、「これで起きてしまうというのは、限界に近くないか?」と思いました。彼女が半年ぐらいで本国に帰ったんですが、心底ほっとしました。もちろんもちろん私がわるくて、申し訳なかったなあ、と懺悔しつつ……。

松本 うん。

金田 そして、次に入ってきてくれた人が、異常に眠りの深い人でした。

松本 それはよかった(笑)

金田 本当によかったです。彼女は目覚ましのかなり大きい音、デジタル音ではないジリリリリリという音が20分経っても、ずーっと動かない。これはもう消さなきゃと思って、彼女のそばに寄ったら、意識はあったらしく、はっと起きたりしてた。彼女はすっごいがんばり屋さんで。いつも、意識を失うような寝方をしていて、「努力してるなあ、ってか、それ死なないのかなあ」って心配でした。そういう人って、東大には多いんだろうけど。そしてなによりも、「眠り深くてありがとう!」。

担当 それは本当にいちばんいい……。

金田 そして私がオタクだし、オタクの研究してるから、本棚がものすごい状況で。二人部屋のときには、ベットが部屋の入り口から見て右左にあって、半々で使ってたんですが、私の本棚が部屋の真ん中を占領して。置くのやめろって叱られても無理ない状況だったんですけど、それにも文句を言わないでいてくれた。私と一緒に住む人は、たいてい、すっごい我慢してくれたと思います。私だけでなく、文系の人って、ほっといても本が多くなりがちだから、入寮選考委員が気を利かせて、理系と文系で組ませるようにしてるんですね。

松本 なるほど。

金田 理系の人は、その努力家の方もそうだったんですけど、「本……少ないね……」って感じで。理系の人は、本を見て研究をしてるわけじゃないんでしょうね。そもそも、学問のやり方が全く違うんですね。文系の、私レベルの人が一緒の部屋にいたら、物に埋め尽くされて死んでしまう。だから、文系と理系を一緒の部屋にするのが基本でした。その後、個人の部屋(一人部屋)に移れるタイミングで申し込んでみたら、たまたま通ったので、移動することになりました。何百回も荷物を持って往復して、旧寮の2階というところに移りました。そういえば面白いのは、寮の二人部屋では「306右」「306左」って言い方をするのね。

松本 はいはい。駒場寮では向かい合った北側がB(ベッドルーム)、南側がS(スタディルーム)という言い方でした。

金田 (白金寮生は)この呼び方といい、なんだか刑務所の人って感じなんですけれど。いっぽう、前に話題になったスウェーデンの刑務所の画像を見ると、白金寮よりはるかにきれいでやりきれなさを感じました。でも私、あの刑務所に住んでも、物をたくさん置いて叱られると思う。

担当 金田さんは駒場寮の中に入ったことってあるんですか?

金田 ないです。基本人見知りで、駒場寮に友達はいなかったから。

担当 あんなものは、つぶれてしまえばいいと思っていました?

金田 つぶれればいいとは思ってなかったですが、あの運動自体がやはり、なんだかよくわからなかったですね。ただ、この本にも出てくる(上野ゼミの)松井さんとは時々アニメとかの話をしたかな。今何してるか知らないけど。

松本 松井隆志君は僕の2学年下なんですが、一緒に駒場寮の廃寮反対運動をやってた人で、寮ではエヴァンゲリオンの上映会をやっていた。いまは武蔵大の准教授の社会学者。

金田 えっ? いつの間に定職に? おごってもらおう、今度。

松本 駒場寮に女子が入っていいかっていう話に戻ると、旧制一高の時代は基本的に女子禁制。寮祭の時だけ立ち入りが許された。

金田 その代わり、下の学年の男子をかわいがることがあったと。

松本 戦後は東大にも女子学生が入学してきて、女子大もたくさんできた。駒場寮は男子寮ではあるけれど、東大生かそうでないかも問わず、女子も寮の中に入ってもいいことになった。そのあたりは自由ですね。

金田 そして、寮内でただれた青春もあったわけですね。青春の命を燃やすかのように、学内でセックスをする話とか出てくるよね。キャンパスでは今しかできないからなんですかねえ。

一緒に住むときには「逃げ場」が必要


松本博文『東大駒場寮物語』、発売中!

担当 これから寮生活をはじめる人も、もしかしたら読んでるかもしれないので。最後に、いまの時代のシェアハウスにおける心得、みたいなのはありますかね。

金田 そうね、まず浴槽でうんこはしないほうがいいね(笑)

松本 プライバシーという話はありますけど、住んだらすぐにどうでもよくなっていくということはあります。

金田 私も入るまでは中央に暗幕のようなカーテンを引くような気がしてたんだけど、意外ともう、どうでもよくなってくるのね。ちょっとぐらい見られるとか。でも、完全に暗幕を引いちゃた部屋とか、見たことあって。その人と一緒になった私の友達が、すごく不自由してた。まったく話もしないと。さすがに、一緒の部屋に住んでいて、まったく話をしない人というのは、共同生活に向いてないんじゃないかと。

松本 まあ、中にはそういう人もいるんでしょうね。

金田 それから、ある程度、逃げ道というか、いまの人間関係を変えられる可能性がないといけない。どうしても合わないペアを、簡単な手続きで変えられるっていうしくみがないと、最悪殺人になるから。さらに、3か月に1回ぐらい集会があって、できれば週に1回ぐらいは近くの部屋の人とご飯を食べる会みたいなのがあって、周囲に誰が住んでるかぐらいはわかるぐらいがいい。あるいは、どうしても二人がダメなら、お金を多めに払うことにより、一人部屋にできるしくみがあったらいい。そういうある種の逃げ道というか、この関係を固定しなくてもいいよ、って可能性が開かれてないと、厳しいと思います。いちばん固定された関係というのは、実は家族であったりするわけですが、それこそ家族内のトラブル、虐待や暴力というのは一番多いわけですし。

松本 駒場寮の部屋もクローズドっていう形態があって。仕切りのないオープン、仕切りのあるクローズド、そしてその中間のセミクローズド。基本的にオープンなんですけど、戦後になって、ちょっとずつクローズドが増えていくわけですよ。

金田 なるほど。自分の家で個室だったから、というのもあるでしょうね。

松本 そうそう。で、クローズドはよくないんじゃないか、という議論を、実は戦後から廃寮までの五十数年間ずっとやってきていた。僕はオープンの部屋に住んでたけれど、クローズドの方がいい、仕切りがあった方がいい、という寮生も多い。それを前提とした上で、どうコミュニケーションをはかるか、ということを話し合うべきではないかと。

金田 私も寮に入るまでは仕切らきゃ精神的に無理だろうな、と思い込んでました。でも入ってみたら、私の場合は、全然そうではなかった。だから、自分は神経質だと思い込んでるだけ、ということもあるかもしれない。

松本 たいていの人は、寮に入るまでは、自分は個室じゃなきゃやっていけないんじゃないか、と思うんだけれども、入ってみれば、8割方の人はそうでもないのかなあ、と。

金田 そう、8割方はね。

松本 でもやってみて、やっぱりダメだったという人もいるわけでね。そういう人は、相手を替えるとかね。互いに、本当にクローズドにしなきゃダメな人と一緒になるとか。

金田 あと、白金寮も点数制だからこそ、寮生はしぶしぶでも最低限の掃除をやっていた、というところはあるから、共有部分の保全については、ポイントかお金によってルールを設けるのがいいんじゃないかと思います。私は気がつかない方なんですけれど、掃除など、気がつく人の方が割をくう、っていうのはよくないと思っているので。

松本 お金は大変ですよね。自治寮で何が大変かって、やっぱりお金の管理は大変で。寮費を払わない寮生に追い込みをかける、っていう話は、実は駒場寮でもあったんですよ。

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東大駒場寮物語

オオスキトモコ /松本博文

ムツゴロウ、野田秀樹、堀江貴文、小池龍之介など様々著名人が巣立った日本最古の大学寮は、著者が入学した93年には廃寮計画が進められていた。寮にまつわる数多の史実を交え描く、筆者たちの実録青春記。

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コメント

mtmtlife 金田淳子さんに言われて、ああそうか、と改めて知らされたのは、同じ学生でも文系と理系では、持っている(持たざるを得ない)本の量が全然違うと。 https://t.co/ZonRfNUdPz 1年以上前 replyretweetfavorite