東大駒場寮物語

学生寮と自治【特別編vol.3】

『東大駒場寮物語』著者で、元駒場寮委員長である松本博文さんと、東大卒で、今はなき東大の女子寮・白金寮に住まれていたBL研究家の金田淳子さんが初めて対談。同世代の二人が、90年代の東大生、そして90年代の東大の学生寮のリアルに迫ります。

白金寮の仕事はポイント制

担当 寮の制度にはどのような特徴があったんでしょうか?

白金 やっぱり面白かったのはポイント制ですね。仕事をすると、その仕事の強度に応じてもらえる「点数」というのがあって、一種の地域通貨ですね。その場でお金のやり取りをするんじゃないけれど、最終的にマイナスがたまりすぎると、退寮時にお金で支払わなければいけなかった。なんだかんだでポイントを貯めなきゃいけないっていう、そんな変な使命感みたいなとかありましたね。

松本 それはうまく運用されれば、合理的な制度ですね。携帯電話のない時代なんで、電話当番とかありましたね。

金田 白金寮でも電話当番がありました。電話室にテレビがあるんですが、テレビが家になかった、という東大にありがちな人が、テレビが珍しかったらしく、それをずーっと見るために、電話番をしていて。

松本 効率がいいですね。

金田 でも、電話が来ても出ない! っていう。

松本 えええええ。それはダメですね(苦笑)。

金田 そういう証言が多くて。でもその人は電話番をずっとしてるから、点数(ポイント制)をたくさん持っている。点数は自己申告制なので、こういうことも起きてしまって、よくないですね。ともあれ、私達の治安の守り方っていうのは、点数によるんです。点数をあげるから、減らすから、どっちかなんですけれど、何かしろと。

松本 電話番の話をすれば、駒場寮の場合は義務だったわけです。部屋ごとに機械的に割り振られて、順番に回ってくる。1回2時間なんですけれど、サボると、2000円の罰金。

金田 大きいですよね。

松本 そう。2000円を後で取られて、その代わりにバイトが電話番をして、1500円払われるっていうシステムでした。それでもね、あまりにサボる部屋が多くて。自分もいい加減な人間だという自覚はありますが、それにしても、義務に対する考えが雑な寮生は多かったですね。

金田 うちも雑な人と、そうでない人の差が大きくて。

松本 ちゃんとしてる人からしたら、それが許せなく思えてしまうんですよね。

金田 そうですね。もちろん、ある意味そのゆるさがいいところもあるんですけど。あと、白金寮の場合、人間関係をそこそこ築くことができていると、たとえば自分がやった電話番の点数を、他の友達の名前でつけておくこともありました。

松本 代わりにやってあげる、ってことですよね。

寮に遅れてきたIT化


松本博文

金田 よくそういう風に代わりに仕事の点数をもらうことのある人っていうのは、特殊技能を持っている人とかですね。Rちゃんというパソコンを直してくれる人がいて、ほんと気さくで頭の良い、すばらしい人でした。「自分はパソコンを直すのも、パズルみたいで面白いからやっているだけで、別に気にしなくていいよ、でももし気にするんだったら、点数をつけておいて」って。2004年ぐらいだったかな、インターネットを引くっていう意見の取りまとめと、敷設を、私と3人ぐらいでやったんですけれど、うち、一番大きい働きをしたのはRちゃん。

担当 寮のIT化。

金田 そう。いくらなんでもみんなが携帯でパソコンつないでるの、おかしいだろ、と。全体でインターネットを引くと、月々はこれぐらいで初期費用はこれぐらい、と寮生に説明していってですね。白金寮は、今まで積み立てているお金が残っていて、しかも白金寮はこの後なくなるから、それで初期費用は十分まかなえる、ということがわかったんです。

担当 白金寮は2010年に廃寮ですよね。もう今の人のために使っちゃおうということですか?

金田 そう、そういうこと。寮のために何かあったら使うということで貯めてきたお金が、当時数十万円あったんですよ。それがあるのに、研究生活とか、生活のクオリティがインターネットがないことでずいぶん下がっていて、それがわかっているのに、なぜやらないのか。そういうことを、みんなが集まる3ヶ月に1度の集会のときに話し合いました。もちろん、人によって感覚の違いがあるんですよね。一週間のうちかなり長い時間を寮で過ごす文系の学生は、「もちろんそうして欲しい。調べ物とか超はかどるし」と思ってる。いっぽうで理系の人は(忙しくて寮に)あまりいなかったりするし、あと、自分の机が研究室にあったりする。だから「いらないんじゃないかなあ」と言ったりする。その意見の違いはあったんですけど、「インターネットを引く以上に、余っている寮費の使い方はあるか?」っていうと、ないわけで。

松本 うんうん。

金田 全会一致とかじゃなかったんですけど、反対派も、自分のお金から出すわけでもないし、Rちゃんが実際の敷設の作業を全部やるって言ってて、その後の運営はインターネット委員を作りましょうということになりました。そうして、行政機構がだんだん大きくなってきて、だんだんみんなを圧迫するっていう問題も生じてたんですけど、それは置いといて。Rちゃんはそのとき、マイナス50点ぐらいだったんですけれど、あと半年すると就職して出ていくというので、この機会を逃してはもうできないですし、そのマイナス50点をチャラにする、という条件でやってくれた。

担当 マイナス50点のまま出ていくと、何かペナルティがあるんですか。

金田 あります。それはお金です。マイナス10点まではいいんですよ。10以上だと1点500円になって、清算をせまられます。

担当 けっこうでかいですね。

金田 お金に関しては、私たちは人一倍敏感でしたね。遠い国へ帰っていく場合はもう、取り立てようがないんですけれど、日本にいる場合は、研究室とかまで、電話をかける。そのときの寮委員の気持ち一つなんですが、時々追い込みます。ブラックリストに10人ぐらいの人がいて。ただ、そこまで熱心にやった場合でも、たとえば20万円以上とかになった場合、人は払わなくなるんですよね。サラ金みたいな取り立て方をするわけではないし、利息が発生するわけでもないし、そもそも、寮を出て就職してもそんなにお金ないことわかってますしね。いまもう、白金寮もなくなったわけだから、踏み倒して終わった人はいます。

松本 なるほど。

金田 理系の人だと、実験とかで、遊んでるわけではないが、ほぼ寮の仕事やれない、って人がいるんですよね。ずっと寮にいてインターネット見てる人とは、比べてはいけないのかもしれませんね。

担当 ポイントが上回っていて出ていく場合に、お金になるっていうことは…?

金田 それはならないんですよね。だからみんな適当な塩梅で計画するんですよ。すっごくプラスになっている人、400点とか500点とか貯めている人って、何かちょっとおかしいわけですね。でも400点超えている人って、一人しか知らないんですが、それがさっきの電話番してても、電話に一度も出なかった人だったりする。

お風呂で○○する輩


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東大駒場寮物語

オオスキトモコ /松本博文

ムツゴロウ、野田秀樹、堀江貴文、小池龍之介など様々著名人が巣立った日本最古の大学寮は、著者が入学した93年には廃寮計画が進められていた。寮にまつわる数多の史実を交え描く、筆者たちの実録青春記。

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