宇宙掃除

衛星のサイズを決める

スペースデブリ(宇宙ゴミ)を除去するために、ASTROSCALEという会社を立ち上げた岡田光信氏。彼が取り組んでいる宇宙のこと、彼が体験しているわくわくするような体験を、エッセイで毎月お伝えしていきます!

宇宙ゴミの捕まえ方は粘着剤にしようと決めた。最高に薄くて、最高に軽いから(第9回参照)。

ハエ取り紙のように、宇宙に吊るして宇宙ゴミを一網打尽にできれば最高だ。だけど、 宇宙ゴミは秒速7〜8km、時速で27,000kmという速さだし、方向も縦横無尽に飛んでいる。どんなに頑丈なハエ取り紙を設置しても、爆発してふっとんでしまう。

だから、宇宙環境に影響の大きい宇宙ゴミから順番に、一つずつ、ちゃんと近づいて、ちゃんと捕まえて、ちゃんと除去しなければいけない。

ちゃんと捕まえるために、除去専用の人工衛星が必要だ。僕は、その衛星の名前をADRAS(アドラス)と決めた。デブリ除去のことを英語でADRという。Active Debris Removal。会社名はAstroscaleだからAS。つなげてADRAS。

ゴロは悪くない—。

人工衛星の作り方は 論文を読み専門家と話して、ごくごく基本的なところは把握していた。(第4回参照)。でも、不思議な事に人工衛星のサイズの決め方についてはどこにも書いてなかった。

ADRASのサイズを決めるというのは実はとても深いことだった。チーム編成、資金量、工場の大きさ、打上ロケットの選択、衛星に埋め込める機能の性能や種類・・すべてに影響するし、すべてを考慮にいれなければならない。宇宙ゴミ除去戦略そのものと言っていい。

2014年5月ごろ。ちょうど設立から1年たったころ、僕は衛星のサイズに悩んでいた。

人工衛星のサイズはさまざまだ。

一番小さい人工衛星は10cm立方で約1kgだ。一番大きい人工衛星は 10m、重さ9トン(9000kg)もある。

途方も無く大きな空間に漂う宇宙ゴミ。場所も大きさも異なる。ひとつひとつの宇宙ゴミに合わせてADRASをカスタマイズしていたら、途方も無いお金と時間がかかる。

だから、ADRASはひとつのサイズに落としこみたかった。

その為にはいろんな制約条件を考えなきゃいけない。


1)機能とコスト

大きければ大きいほど、高度な機能を取り込むことができる。1機で大きなゴミにも小さなゴミにも対応することができる。燃料もたっぷり搭載できるのでパワーが出る。逆に、設計費、部品費、組立費、試験費、施設費、運搬費、打上げ費・・・・すべてのコストがぐんぐん増えていく。

つまり、宇宙をきれいにする総コストも膨大になってしまう。

小さくするととコストは下がるが、機能は落ちる。十分な太陽光発電ができず、十分な燃料を持てず、そもそもセンサーや推進系を減らす・なくすことをしなければいけない。

自由に宇宙空間を移動したり、細かな姿勢制御したり、速い通信速度を実現することが難しくなる。冗長系といって、何かあったときのバックアップ機能も搭載できなくなる。


2)ロケットからの条件

ロケットにはJIS規格のようなものがない。世界にはいろんなロケットがあるが、どれもバラバラな設計になっている。だから衛星を搭載する格納庫の条件もバラバラだ。

どのロケットも、サイズや重さはこれに納めなさい、という条件を公表している。たとえば、アメリカのミノタウロスというロケットはこんな風になっている。

ロケットは毎日打ち上がるものじゃない。希望の軌道に行く便なんてめったいにない。良いタイミングで、行きたい軌道に行くためには、なるへくどんな種類のロケットにも乗れるように、なるべく小さくしなければいけない。


3)資金の制約

僕たちはベンチャー企業だ。そして残念ながら僕はお金持ちじゃない。出せるお金、約2000万円の資本金で始めた。市場からもっと資金を調達しなければいけない。

アーリーステージ(初期段階)のベンチャーの資金調達は、できても数千万円からよくて1〜2億円が相場だ。

ソフトウェア企業と製造業の大きな違いは、製造施設、実験機器、部品、などのモノが多数必要なことだ。だから初期コストが非常に大きい。アメリカの宇宙ベンチャーを見ていると、40~50億円くらいは必要に見えた。

その当時、アメリカでも資金調達をちゃんとできている事例はわずかだったし、アジアの宇宙ベンチャーで1億を越える資金調達はまだ例がなかった。

僕は投資家を説得できるだろうか。宇宙ゴミ除去というまだ存在しない事業について—。

衛星の大きさを決めることに僕は2ヶ月ほどもたついていた。むしろその決断をせず、いくらお金が必要か精査もせず、投資家に当たることもせず、世界の大きな財団に声をかけていた。

財団だったら大きいお金を提供してくれる可能性があるんじゃないかと思ったからだ。

甘かった。

「とても重要な事をなさっていると思うが、今取り組んでいる領域以外に広げる予定がありません」
「せっかくいらしても、お会いできる時間がありません」

会って話を聞いてもらうこともできなかった。美しい英語で書かれた丁寧な断り文句の裏側に厳しい目線を感じた。

でも、止まっていられない。原点に戻って、ちゃんと衛星サイズの基本方針を考えるようにした。

・必要な機能をもった「最小単位」の除去衛星にする
・大きいゴミに対しては複数の除去衛星で対応する

宇宙ゴミの除去には、まだ確立されていない3つの新技術が必要だ。

1.非協力接近技術(ゴミに近づく)
2.捕獲技術(ゴミをつかまえる)
3.デオービット技術(ゴミを大気圏に落とす)

これらを実現するための、センサーや推進系や電源や通信機器は数多く、小さな衛星ではできそうになかった。300kg程度の衛星が必要かもしれなかった。そうすると途端に開発期間は6~7年、開発費100億円くらいになる。

この続きは有料会員登録をすると
読むことができます。
cakes会員の方はここからログイン

1週間無料のお試し購読する

cakesは定額読み放題のコンテンツ配信サイトです。簡単なお手続きで、サイト内のすべての記事を読むことができます。cakesには他にも以下のような記事があります。

人気の連載

おすすめ記事

コルク

この連載について

初回を読む
宇宙掃除

岡田光信

スペースデブリ(宇宙ゴミ)を除去するために、ASTROSCALEという会社を立ち上げた岡田光信氏。彼が取り組んでいる宇宙のこと、彼が体験しているわくわくするような体験を、エッセイで毎月お伝えしていきます!

この連載の人気記事

関連記事

関連キーワード

コメント

Tweetがありません