毎日毎日、満員電車に乗っていたら、たまには会社に行かずにどこか遠くへ行ってしまいたいと思う方がまともだ。そういうネガティブな考えの人間は大人じゃないとか根性がないと言う人とは友達になれない。まずそんな人間はポジティブで根性があって、センスがない。それが立派な大人なら、ボクはやっぱり立派になりそこねたんだと思う。
上野駅のホームのベンチに座りながら、アシスタントからの何度目かのコールにでた。スマホの向こうから「勘弁してくださいよー!」の声。剥けたくちびるの皮が痛い。用事が片付き次第、会議には出るよと約束をしてスマホを切る。そしてまた性懲りもなくフェイスブックを開いてしまった。
駅にはまた新しい人たちが白線に沿って整列を始めていた。暗闇の向こうから日比谷線のライトが近づいてきている。
彼女との出会いは、この世にまだ携帯電話もヤフーニュースもない時代、雑誌の文通コーナーだった。
その頃のボクは横浜郊外の、徹底して不衛生で有名だったエクレア工場で働いていた。 スーパーマーケットの店頭に並ぶエクレアを、6個ずつひたすら箱に詰めていくというドーパミンがやたらと出てくる仕事をしていた。同僚のほとんどはブラジル人で、日本語はみんなボクよりも達者だった。昼食付きと書かれていたけれど、崩れたエクレアが皿にてんこ盛りで置いてあるような有り様だった。
休憩室にはいつも誰かが持ってきた『デイリーan』が置かれていた。今では信じられないけど、たいがいの雑誌に文通コーナーがあって、アルバイト探しの情報誌のはずの『デイリーan』ですら最後のページは文通コーナーだった。