先週のスーパー・チューズデーでは、トランプが大勝し、共和党の指名候補になる確率が高まった。
昨年までトランプを「冗談候補」として軽く扱ってきた共和党のエスタブリッシュメント(党内で権力、影響力を持つえらいさん)は、現在パニック状態だ。
なんせ、それまで共和党にすら加わっていなかったトランプが、いきなり飛び込んできて共和党の有権者をどんどん奪い、エスタブリッシュメントが推す候補を退けて、予備選に勝とうとしているのだ。
この状況は、企業の「敵対的買収」に似ていると、MSNBC(ニュース専門のテレビ局)で政治番組の司会をしている元共和党下院議員のジョー・スカボロは言う。通常、会社が別の会社を買収するときには、双方の親会社や取締役などが細かいところまで話し合う。でも、「敵対的買収」では、相手の意向などは無視し、株を買い集めて、その企業を買収する。
第7代アメリカ大統領アンドリュー・ジャクソンの伝記でピューリッツァー賞を受賞したジョン・ミーチャムの表現は、もっとわかりやすいかもしれない。
「ドナルド・トランプは、政党をまるごとハイジャックするのに成功した。パイロットたちは、なぜ乗客の誰も自分の味方になってくれないのかまったくわからない。彼らはハイジャッカーのほうを拍手喝采で歓迎しているのだ」
共和党のエスタブリッシュメントは、「トランプは、共和党の価値観なんか信じてはいない。嘘つきだ。言うことを聞いてはいけない」と必死に呼びかけるのだが、党員たちは耳をかさない。そのうえ、よそ者までがトランプを応援するために共和党に押し寄せる。予備選では、その党に属していなくても投票できる「オープン」システムを使う州が多いのだが、通常はあまり影響はない。だが、今年の選挙では、無所属や民主党の一部までもが共和党の予備選に参加してトランプに票を投じている。
まことに気の毒な状況なのだが、共和党にこの危機をもたらした張本人は、国や国民のための政治よりも「民主党に勝つ」ことを優先してきた共和党のリーダーたちなのだ。
「愚かな貧乏人」と見くびった共和党のエリートたち
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