​『ヘイトフル・エイト』 血みどろの「アメリカごっこ」

クエンティン・タランティーノ監督の最新作『ヘイトフル・エイト』。閉ざされた空間で、アクの強い人々が織り成す濃厚なストーリーは、観客を釘付けにします。さて、この男女8人密室物語をブロガーの伊藤聡さんは、どのように見たのでしょうか。

『レザボア・ドッグス』(’92)や『パルプ・フィクション』(’94)の成功以降、世界中の映画ファンの話題の中心でありつづけた監督、クエンティン・タランティーノ。彼の最新作が『ヘイトフル・エイト』である。「雪山のロッジを舞台にした密室ミステリー」という触れ込みであり、サミュエル・L・ジャクソン、カート・ラッセルといった、タランティーノお気に入り俳優の演技も見どころだ。

舞台は、南北戦争が終結した直後のアメリカ。厳しい冬で知られる、ワイオミング州の雪山である。猛吹雪で身動きの取れなくなった男女8人が、とあるロッジに避難する場面から物語は始まる。天候が落ち着くまで待つしかない状況で、出身や職業、人種の異なる8人が同じロッジに閉じ込められる。賞金稼ぎ、保安官、絞首刑執行人、元南軍将軍などの面々は、同じロッジに滞在する、1万ドルの懸賞金が賭けられた犯罪者の処置をめぐって疑心暗鬼に取りつかれる。さらには南北戦争にまつわる因縁も絡み合い、ロッジ内は一触即発の状態へと陥るのだった。

『ヘイトフル・エイト』は、いかにもタランティーノの作品らしく、登場人物の饒舌な会話に特徴がある。どこまでが本当でどこからが嘘なのか、判断がつきかねるような会話を積み重ねる男女8人。白人は黒人を差別し、黒人はヒスパニック系を差別する。職業も経歴もすべて自称に過ぎず、ロッジ内の信頼関係は生まれるべくもない。結果として、時間が経つに連れていさかいはエスカレートしていく。誰かが発言するたびに、劇中の人間関係は複雑に揺れ動き、さらに疑念と不信がふくらんでいくのだ。エネルギッシュな会話劇の魅力にあふれたフィルムといえるだろう。

「さて諸君。こうして雪山に閉ざされた以上、もう数日はこの場所で共に過ごさなくてはならない。そこで提案なのだが、このロッジをふたつに分けるというのはどうだろう。北軍側と、南軍側にだ。このディナーテーブルは緩衝地帯。あのバーはジョージア州で、暖炉の前はフィラデルフィアってことにしないか」。劇中、ある登場人物は、このロッジをアメリカに見立ててみようと奇妙な提案をおこなう。本作でもっともスリリングな瞬間である。

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およそ120分の祝祭 最新映画レビュー

伊藤聡

誰しもが名前は知っているようなメジャーな映画について、その意外な一面や思わぬ楽しみ方を綴る「およそ120分の祝祭」。ポップコーンへ手をのばしながらスクリーンに目をこらす――そんな幸福な気分で味わってほしい、ブロガーの伊藤聡さんによる連...もっと読む

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igufoto ヘイトフル・エイトのこの評論読んでて、俺めちゃくちゃ大事な部分で睡魔で完全に記憶飛んでることに気づいた… うわぁ https://t.co/eqtEPHHW6e 2年以上前 replyretweetfavorite

fumtandel タランティーノの新作やってたのかー 2年以上前 replyretweetfavorite

m_um_u 『ヘイトフル・エイト』 血みどろの「アメリカごっこ」| 2年以上前 replyretweetfavorite

campintheair cakesでは『ヘイトフル・エイト』評が読めるようになっております。いま、アカデミー賞関連の映画がたくさん上映中で、チェックするのもたいへんかと思いますが、ぜひ映画を見て、私の評もお読みくださいませ。 https://t.co/zYSJTIGdVC 2年以上前 replyretweetfavorite