90年代東大生のリアル
担当 松本さんの『東大駒場寮物語』、日経新聞にて著者インタビューをいただいたのをはじめ、朝日新聞、読売新聞、週刊文春、サンデー毎日などなど多数の媒体にてご紹介をいただきました。読んだ皆さんからは大絶賛。しかし、売れ行きはもう一つでして…そのため、今日の企画の趣旨は、『東大駒場寮物語』がもっと売れるように、90年代の学生の雰囲気や、学生寮・共同生活に興味を持っていただけるようなお話をしていただければと思います。
金田淳子(以下、金田) その気持ち、ヒリヒリするほどよくわかります(苦笑)
担当 基本的には、お二人が東大にいらした90年代、それこそ江川達也さんのマンガ『東京大学物語』が連載している時代の東大の雰囲気はどんな感じだったのか、そして、金田さんが過ごされた東大の白金寮はどういった寮だったか、最後に今の時代の共同生活のあり方などをお話いただければと思います。
金田 私は93年に東大に入学しました。生まれ年が松本さんと同じ1973年で、浪人してるんですよ。
松本博文(以下、松本) 僕も浪人したので同じ年です。金田さん、文Ⅰ(法学部進学系)ですよね。語学は?
金田 フランス語。
松本 それも同じ。どのクラスでした? 僕は21組で。
金田 よく覚えてますねえ。私は何組か覚えてないし、それどころかほとんどのクラスメートの顔も名前も覚えてません。クラスのつながりとか、あったのかも知れないけれど、私はそこに入っていけなかった(笑)。
松本 僕はシケ長(各クラスの試験対策委員会の委員長)やってたから、わりとクラスとは関わりがあって。人のプリントをつくるのに夢中で勉強はしなかったんですが(笑)
金田 え、もしかして、私と松本さん、同じクラスだったとか?
松本 いえ、それはないです(笑)。女子は少なかったから、わりとよく覚えてます。
東大生とオタサーの姫
金田 フラ語は一番多いんですよ、女子が。文Ⅰのフラ語のクラスだと、60人の中に女子が10人いた。そのいっぽう、チャイ語(中国語)は、たしか女子が2人ぐらいだった。
松本 同期の理Ⅰドイツ語が、男60人、女子1人だったと聞いたことありますね。今で言う、「オタサーの姫」みたいな状態ですかね。
金田 いや、そこまで器用に姫として立ち回る人は私は見たことないですね。姫としてではなく普通にターゲットを定めて落としに行く女性はいましたけど。そもそも男側の勘違いでできている現象だからね、オタサーの姫って。そう思いませんか?
松本 思います思います(苦笑)。いやでも、いつの時代でも戦略的に、そういう立ち位置に行く人も、中にはいるんじゃないかなあ。
金田 行く人もいると思いますけど、相当肝が太くないと、やりづらいと思いますね。「男同士が、私のためにケンカをするの」——とか、そういうのを高みから見ているのが何よりも好きという気質の人でないと、自分に危害が及ぶ可能性もあるし、めんどくさいだけですよ。普通、そこそこのところで手を打って、誰かと付き合うと思うんですよ。で、誰かと付き合うようになれば、あとはすーっと、波が引くようにしてね、まともな男は空気を読んで離れていく。
松本 僕が感心したのは、入学してすぐに行われる上級生たちとのオリ合宿(同じクラスの人たちと、上クラと呼ばれる2年生のクラスの人たちが引率をして親睦を深める合宿。富士五湖周辺にいくクラスが多い)が終わったぐらいの時点でもう、カップルがちらほら出来てたりしますよね。
金田 ありますね。それは決断が早いのと、互いに恋人がほしい、デビューしたいという…。
松本 お互いのニーズが合致するんでしょうね。
金田 そうそう。大学デビューしたいっていう気持ちは、今は知らないけど、私たちの世代くらいまでは、かなり周囲で見受けられました。そもそも高校までは鬼のように勉強していたりとか、共学でも男女交際に厳しい校風だったりする。私は富山県の富山高校っていう、学生たちが男女交際に疎い高校で、団塊ジュニア世代で10クラスぐらいあった一番人数が多い世代だったにもかかわらず、「付き合ってるらしいぞ?」っていう噂が立っているのが、4、5組。「へえー、進んでるねー」みたいな話をしてた。あと、「男女が付き合ってはいけない」という校則が一応あった。
担当 不純異性交遊(笑)
金田 私の研究的には、不純と純粋の違いは何なのかってことと、あと、同性ならいいのか問題とかあるんだけどね。あと東京の人でも、女子校育ちで男と無縁だったので「絶対大学デビューする!」って積極的に男子にアプローチをしていた人がいました。「ああ、そっかー、がんばってるなあー」って思った。で、その恋愛をがんばるのが当たり前みたいな空気で、私は個人的にはちょっと、入れなかったですね
松本 ああ、なるほどなるほど。その空気感、よくわかります(笑)。
BL研究家・金田淳子
旧制一高とBL
松本 今日は金田さんが専門家だから、BLの話を、と思ったんですけれど、僕はあんまり詳しくなくて(苦笑)。でも、昔の旧制一高時代の話っていうのは、もうこれは、男しかいなくて。男しかいないから自然と同性愛の話になるわけですよ。
金田 なりますよね! 森鴎外の『ヰタ・セクスアリス』に出てくるストームの話が好き。
(『ヰタ・セクスアリス』では明治の時代、東京英語学校の寄宿舎の話が描かれている。男子ばかりの寄宿舎では同性愛が身近であった。主人公は夜に襲われないようにと、手元に短刀を置いていた)
松本 有名な話だと、川端康成の『少年』でしたっけ。(川端の自伝的小説で、自身が経験した、旧制茨城中学の寄宿舎における同性愛の話)
金田 あれはBL大作です!
松本 他にも菊地寛には、同性愛の関係があったと言われる後輩がいた、彼はその男の窃盗の罪を代わりにかぶって一高を退学するんですが、それもその男に対して同性愛の感情を持っていたからだと言われていて。戦前の旧制一高時代には、そういったBLっぽい話があるんだけれども、実は戦後の、新制東大になってからは、あまりそういう話は聞かないし、資料にも見つからなかったですね。
金田 あったとは思いますけど、少なくとも松本さんの目には入ってこなかったと。松本さんご自身は、残念ながら、そういうのはなかったということですね。
松本 僕はないですね、残念ながら(笑)
金田 ちょっとかわいいな、と目をかけてくれる先輩もいなかった? 自分が目をかける後輩は?
松本 なかったですね、残念ながら(苦笑)。
寮生と性生活
松本博文『東大駒場寮物語』、発売中!
金田 寮生の性生活はみんな気になるところです。
松本 男子寮における一大テーマは、どうやってセックスするのか、という以前に、どうやってオナニーするかって、話ですよね。