SNSがもたらすパクリ増加と共倒れ社会【第86回】

『ku:nel』リニューアルと過剰評価社会について語った前回から引き続き、収まりきらなかったSNSによる評価社会について。「SNSを使うという事は、使用者全員の共倒れしか道はない。」と書かれた菊地成孔さんのブログをきっかけに、ネットと評価社会のこれからを見渡します。

アメリカ大統領選、SNSが炎上促進ツールに

おぐらりゅうじ(以下、おぐら) アメリカ大統領候補指名争いの前半戦の山場である「スーパーチューズデー」が終わって、共和党はトランプ、民主党はヒラリーがライバル候補とのリードを拡大という結果になりました。

速水健朗(以下、速水) トランプが共和党の候補者に指名される可能性がほぼ確実。日本から見てると、なんでこんなにトランプが強いのか謎ではあるんだけど、単純に強いアメリカというメッセージが支持されているだけではない。例えば、不法移民排斥を訴えているにも関わらず、当の移民であるヒスパニック層に圧倒的に支持されてしまっていたり。

おぐら 8年前は、オバマ陣営のTwitterなどを利用した戦略の上手さが指摘されていましたが、トランプの場合はいわゆる炎上芸ですよね。この8年間におけるSNS受容の変化が見事に反映されているというか。ちょっと前のTwitterは、意識高い発言をRTするツールだったんですけど、いまは炎上促進ツールですからね。

速水 アメリカのメディアも、今回はトランプ・バッシングをやったけど、むしろ逆効果だった。マスメディアとウォール街と良識派に対して真っ向勝負しているトランプという像が、彼をさらに英雄にしてしまった。

おぐら 一方、ヒラリーも指名「ほぼ間違いなし」みたいですけど、ここまでのサンダース陣営の大健闘の裏には、SNSの使い方のうまさがあったと言われてます。ITに強い参謀を味方に付けて、インスタもTumblerも利用して若い世代の動員に結びついたと
米大統領選の行方を左右するのはデジタルエリートか!?

速水 芽は消えたかもしれないけど、ここまでのサンダース陣営の選挙戦は、かなりインパクトがあったよね。同じ左派でも、宇都宮健児はまったく応援できないのに、サンダースは応援したくなるというこの感じは何なんだろう。若い世代は、圧倒的にサンダースを支持していたし、一時はいけそうな感じもあった。

おぐら 候補者指名争いについて話せるのはこんなとこですか。

速水 じゃあ前回に引き続き、今回もSNSによって評価づけされてしまう社会のことを話題にしようと思うんだけど。

おぐら きっかけは、音楽家で文筆家の菊地成孔さんがブログで書かれたことでした。

速水 「SNSを使うという事は、使用者全員の共倒れしか道はない。」というやつ。ここで書かれているのは、SNSのコミュニケーション全般を否定しているのではなく、一番安いものを簡単に探せる状態って、実はまわりまわって高コストなんじゃないかっていう問いかけ。

おぐら むしろ「得なんかしたら大損する」と書かれてますね。それと、少し前に都築響一さんの『圏外編集者』と、みうらじゅんさんの『「ない仕事」の作り方』という仕事論の本を続けて読んだのですが、そこでも自らお金を払うことの重要性について書かれていました。好きか嫌いか、良いか悪いかわからないからこそ、自腹を切るんだって。

食べログは人を幸せにするのか

速水 SNSを巻き込んだ選挙運動が、どうしても大衆の感情レベルでの扇動に寄るという米大統領候補選の話も象徴的だけど、入り口として議論すべきは食べログ。食べログが本当に人を幸せにするのか問題。

おぐら まったく参考にしないという人もいるし、一応は見るけど……くらいの人もいます。食べログを絶対的な基準にしている人って、そこまで多くはいないんじゃないですか。

速水 うん、でも無視できない存在であるのは確か。人に誘われたりして初めて行く店の評価は、つい見てしまう。

おぐら そもそもお店の名前と場所を知らせるのに、食べログのURLが送られてくることが多いですからね。自分で食べる前に、他人による評価を知らされてしまう。

速水 結局、頼りにしてしまっている。Amazonレビューだって、星5つが並んでいるような本って、教祖が書いて信者が星を付けているようなものばかりで、まったく信用できないと分かりつつも、自分の本の星とかは、過剰に気にしてしまうしね。幸せになってない(笑)。

おぐら 他人の評価って、見えない分にはいいですけど、いざ見えてしまうとどうしても気になっちゃいます。

速水 経済学者の田中秀臣さんと食べログのランキングについて話をしたんだけど、アンケートのバイアスの問題を指摘していた。例えば、1から10までレストランがあって、それに順位をつけろというアンケートだったら、人は正しい判断で指標付けができるんだけど、個々に星を付けるような仕組みだと、どうしても○か×かの極端な感情しか反映されない成績表になってしまうって。

おぐら たしか食べログのアルゴリズムって、何度か変更はされていて、単純にユーザーの評価を平均して星を付けているわけではないんですよね。

速水 それもちょっと話題になってたね。「各レビュアーの信頼度によって重み付けされた評価を元に、独自のアルゴリズムでお店ごとの点数を算出しています」ってFAQに書かれている。

おぐら この回答にある「点数の高いお店は『失敗しない確率が高い』。そんなランキングを目指し」って、すごく現代っぽいですね。

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おぐらりゅうじ /速水健朗

政治、経済、文化、食など、さまざまジャンルを独特な視線で切り取る速水健朗さんと、『TVブロス』編集部員としてとがった企画を打ち出し、テレビの放送作家としても活躍するおぐらりゅうじさん。この気鋭のふたりのライターが、世の中のニュースを好...もっと読む

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コメント

2moon_o 頷きながら読めてしまった。最近モヤっと思っていたことを整理してくれる記事。自分もこの渦中にいる気がする。 3年以上前 replyretweetfavorite

SasakiTakahiro 食べログが本当に人を幸せにするのか問題。 4年弱前 replyretweetfavorite

tomocloz 【メモ】 4年弱前 replyretweetfavorite

yutoma233 フォロワー数の多い人が勝つ時代⁉︎お金で買うとか、パクリとかブックマークとか。最近はてなでよく見かけた話題です。 4年弱前 replyretweetfavorite