陰間と添いとげる条件とは!? 陰間茶屋案内記【後篇】

世界でもまれにみる平和な世、江戸時代。戦国では戦場で鍛えられた男色は、芸能や色町で艶やかな花を咲かせるようになった!?美少年版遊郭ともいうべき陰間茶屋にみなさんをご案内いたします。陰間と添い遂げるためのテクニック、しかと身に着けてくださいませ。
劉邦の宦官』や『九度山秘録』で話題の、新進気鋭の歴史小説家・黒澤はゆまが、歴史のなかの美少年を追って世界中を飛び回る人気コラム!

死にまする、死にまする!!

芝居小屋の入り口である木戸は、鼠木戸と呼ばれ、かがまなければ入らないくらい、小さくこしえられていました。これは母親の産道を象徴しているともいわれ、ここを潜ることで、観客は別の世界に新たに生まれかわることになるのです。

めいめい決まった場所に落ちつくと、やがてトドロン、トドロン、太鼓の音が聞こえてまいります。鳴り物の音も聞こえてきて、胸の高まりも頂点に達したころ、舞台にあらわれるのは、したたるような美少年たちの群れ。

しなやかな身体と共に揺れる振袖の美しさ、紫帽子の妖しさ、鈴が一斉に鳴るような小唄の妙なる響き、何より夜空の星にも勝る少年たちの漆のような瞳の輝きはどうでしょう。

観客の興奮は大変なもので、隣ではお坊さんが喚き散らしています。

「あれは阿弥陀様か。作ったのは誰か? 腸のある御仏か、生き仏様」

その大声に、駕籠かきらしい屈強のお兄さんが腹を立て

「小唄が聞こえないじゃねぇか。坊さんらしくもない。黙って見物しやがれ」

ついには二人でつかみ合いの大げんかになって、仲良く木戸口からたたき出されてしまいました。

ちなみに、こうした芝居町のなかで、刺又や突棒を持ち、治安維持にあたるのは町奉行ではなく、河原者と呼ばれる被差別階級の人たちでした。芝居小屋のなかでは、公家だろうが、旗本だろうが、悪さをすると、触れることすら許されないような、身分の低い人から取り押さえられることになるのです。芝居町や色町は娑婆の身分秩序が転倒する別天地だったのですね。

三味線と太鼓の調子が高まるにつれ、美少年たちの輝きもいや増すようです。感極まった観客たちが次々に歓声を投げかけます。

「ちょいちょい!」

「御作!」

「しにまする!」

「ころすか、ぶっころすか!」

「親はないか!」

わたし達も、彼らを真似て、江戸時代の褒め言葉を学ぶことにしましょう。

まず「ちょいちょい」は、「一よい、一よい」が縮まった掛け声で、今でいう最高、最高の意味です。次の「御作!」は運慶、丹慶作の御仏の像のように美しい。

しにまするは「死ぬ、死んじゃう」ということ、今でもセックスのとき感極まって叫ぶ人がいますね。「ころすか、ぶっころすか」は要するに「殺す気か!?」という意味。「こんなに陶酔させて、もう僕をどうする気だよ」という思いが込められています。

最後の「親はないか」は「こんな素晴らしい芸が出来る、美しい子供を作ったのはどんな親だ。親の顔が見たい」という意味。

さぁ、劇もクライマックス。観客たちは老若男女も、前の席は桃尻になり、後ろの席は伸びあがり、桟敷に座るやんごとなき方たちも耳元まで口をあけ、ぽかんとしています。涙を流しつつ、「あぁ、お天道様だ」「若衆さまのお笑い顔から塩がこぼれるようだぞ」とわめいている人たちもいます。

さぁ、わたし達も学んだばかりの声をかけましょう。

「ちょいちょい!」

「御作!」

「しにまする!」

「ころすか、ぶっころすか!」

「親はないか!」

自分の小指をかみちぎって舞台に投げつけている人もいますが、それは絶対に真似しないでください。

ムダ毛のお手入れは念入りに
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コメント

callais28 「ころすか、ぶっころすか!」=魅力的すぎて私を殺す気か!?ワロタw 私も「死にまする!」とセットでこれ使おうw 2年弱前 replyretweetfavorite

iwashi_p |なぜ闘う男は少年が好きなのか?|黒澤はゆま|cakes(ケイクス) https://t.co/SVh64g6aJK 推しへの声かけのテンションが今と変わらないね。 2年弱前 replyretweetfavorite

ponyo_maru7777 芝居小屋での声援がツイッタで見たことあるのばっかで、連綿と受け継がれた文化なんだ...ってなった 2年弱前 replyretweetfavorite

yanvalou あの噂は本当だったのか!? ▼ 1802年(享和2年)刊行の『東海道中膝栗毛』 弥次郎兵衛と喜多八は、もともと客と陰間の関係なのです。弥次さんは富裕な裕福な家の出だったのですが、放蕩がたたって、喜多さんと江戸に駆け落ちするのですね https://t.co/hIVdLPaVbD 2年弱前 replyretweetfavorite