集合写真の中央で笑っている感じ
『女子マネージャーの誕生とメディア』を記した社会学者の高井昌吏は、卒業アルバムに載っているクラブの集合写真や名簿をあちこちの学校で閲覧するなかで、ある特徴に気づいたと明かす。「当初は集合写真の片隅にひとりぽつんと写っていた女子マネージャーが、時代が流れるにつれ、だんだんと写真の中央にやってくるのである」「時には部員以上に堂々と写っており、表情も徐々に柔和なものに変わっていくのである」。女子マネージャーっぽい、の「っぽい」を言語化するのは難しいけれど、有名人でも知人でも、昔、部活のマネージャーをやっていたと聞かされると、ついつい「あー、っぽい」と返したくなる。あれは何なのか。
miwaって、女子マネージャーっぽい。しかし、この「っぽい」には具体的な理由があって、全国高校サッカー選手権大会の応援歌「ホイッスル~君と過ごした日々~」の存在が頭に植えつけられているから。実際に山形県予選大会を観に行って作られた曲の歌詞は、特定の選手を想う彼女目線のようでもあり、マネージャー目線のようにも思える。このところ高校サッカーの応援歌はおおよそ男女交互に担当しており、この10年間を見渡すと、miwaの他に、女性陣には大原櫻子、いきものがかり、(初期の)絢香、男性陣にはFUNKY MONKEY BABYS、ナオト・インティライミ、GReeeeNという、ポジティブな女子マネージャーとポジティブなスタメン勢がエールの交換を行なっているかのような並びになっている。女性のほうは、先の高井の考察にあった「写真の中央」「表情が徐々に柔和」に倣ったかのようなラインナップと言えるだろう。
歌詞の改稿要請に従い続ける
しかしながら、「O型でしょ?」「いや、A型だけど」「あー、っぽい。逆に分かる気がする」という、この世で一番不毛なトークが教えてくれるように、「っぽい」なんて指摘はおおよそ適当なもの。miwaの女子マネージャーっぽさにしても、現実とは異なっている。彼女は中学時代、週に1回お菓子を作って食べるだけの調理研究部に所属していたし、高校時代は陸上部に入ったものの、部活動にはあまり参加せずにバイトや音楽活動に勤しんでいた。女子マネージャーっぽいどころか、「青春を謳歌した記憶が、ほとんどないんです。ちょっと青春コンプレックス」(miwa『miwa magazine』)というから驚き。実際の彼女は、デモテープを聴いてもらって自分で下北沢ロフトにブッキングするような行動をとっていたという。にこやかに補佐に徹するマネージャーっぽさ、とは遠い存在なのだった。
ドラマやCM側からの要請に応じて、イメージに合わせたシングル曲を作ることの多いmiwaは、その目的のために最適なメロディや言葉を探る。『情熱大陸』で紹介されていたのは、共に余命宣告を受けた夫婦を描くドラマ『ママとパパが生きる理由。』の主題歌作りの模様。原作本を読んだmiwaが作ってきた歌詞は、「ケンカの数も減るけど 喜びの数まで半分になっちゃうよ」。これに対して、男性プロデューサーが難色を示す。
「ケンカって、やっぱ言葉が強いんだよね。ケンカってワードは、どこに入ってきても。言い回しをもっと何か、生々しいほうへ(直して欲しい)」とのこと。ケンカっ早いミュージシャンならケンカの生々しさを彼に教えてあげる展開になっただろうが、彼女は文句ひとつ言わず、締め切りギリギリまで代わりとなる言葉を探す。「想像してみるだけで胸がいたくて切なくなるんだよ」と書き直した歌詞に、プロデューサーは「……普通かな」と半笑い。そこに、「歌詞には正解などない。大事なのはリアルな手触りだ」と例のナレーションが重なると、思わずこちらは拳をふり上げて画面に向かうが、けっこう高いテレビなのでその拳を下ろす。
西野カナファンに聞いてみた
ファンは彼女のどういったところが好きなのだろうか。数少ない人脈にmiwa好きが見当たらないので、以前、本連載で西野カナへの愛を存分に語ってくれたサブカル雑誌編集者にメールをすると、西野カナとmiwaを少しでも混在させたことに激怒するメールが返ってきた。ケンカはよくない。
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