死をもって自らの人生をアートとして完成させる
柴那典(以下、柴) 前回はアイドルの未来についての話でしたけれど、今回はデヴィッド・ボウイについて話したい! というのも、この二つはつながる話なんです。
大谷ノブ彦(以下、大谷) あー、まさにそうですね。そして、今の時代のロックスターのあり方ともつながる。
夢眠ねむ(以下、ねむ) どういうことなんですか?
大谷 そもそもねむちゃんは、デヴィット・ボウイってわかります?
ねむ あの、一応すごい人ってのは知ってるんですけど、星がビビってなってる……みたいな(笑)。
柴 そうですよね。僕らよりもさらに上の世代のスターだし、若い世代の人がこれまでのキャリアをよく知らないのは当たり前。でも、全然それでよくて。というのも、亡くなる直前にリリースされた最新作の『★』がとにかく素晴らしいんです。
大谷 そう! それまでとまったく方向性が違って、バックメンバーはジャズ系のミュージシャンばかり。結果的に遺作になってしまったんですけれど、発売直後は「さすがボウイはこの歳になってもまた攻めたアルバムを作るなあ!」って評価だったんです。
柴 で、後になってわかったんですけれど、実はボウイは1年ちょっと前に癌を宣告されていたんですね。
ねむ ひゃ〜。
柴 つまり、自分に余命として残された時間が1年しかないという段階で、最後の作品として作ったのがこの『★』なんです。
大谷 でもさ、そうなったら普通、スーパーベストとか、集大成みたいなことをしようと思わない?
ねむ する! 「今までありがとう!」みたいなことやると思う。
大谷 ファンだって、今までにやってきた人気のパターンをやれば喜ぶだろうしさ。デヴィッド・ボウイはその段階で新しいことやるんだもん。ほんとにすごい。
柴 去年にケンドリック・ラマーという若いヒップホップのアーティストが、やっぱりジャズ系のミュージシャンを起用した『トゥ・ピンプ・ア・バタフライ』というアルバムを出して、世界的な評価を集めていたんです。デヴィッド・ボウイもそれに刺激を受けて「負けてられるか」って死ぬ間際にも挑戦して、こういう作品になったんですね。
ねむ そっか。ずっと第一線に立ってるっていうことは、ちゃんと発明をし続けているっていう意味なんですね。
柴 彼のすごいところはそこなんですよ。一度成功した自分のやり方をあっさり捨てて、どんどん新しいことを始めちゃう。ずっとそれを繰り返してきたんです。だから70年代とか80年代の時も新作が出るたびにファンは戸惑ってた。「この人、何がしたいんだ?」って。