スティーブズの会社訪問記

第1回「万葉に行こう!」

アップル創世記をテーマにしたコミック『スティーブズ』を描くスティーブズチームの面々が、「会社を作る」ってどういうことか知るための社会勉強。第一回は「かるたマネーで設立した」というウェブ系のシステム開発会社の万葉へ。話は大場代表と久保取締役のケンカから始まった。

管理者と工場長、ケンカする

松永肇一(以下、松永) われわれスティーブズという漫画を描いてまして。初期のAppleってすごいデタラメなんですよ。作るときも経営も。何度もつぶれかけたりしてて。で、ふと、ほかの会社ってどうなんだろう?と会社訪問企画を思いついたんです。それで、どこに行けばいいか悩んでるときに、万葉さんおもしろそうだよね、っていう話になって。

小沢高広(以下、小沢) ぼくがおもしろそうだなって思ったのは、どう考えてもIT系の名前じゃないってところが(笑)。ナントカテクノロジーみたいなのが多いじゃないですか。

久保優子(以下久保) そうですね。カタカナの名前はやめようねって2人で。

大場寧子(以下大場) ありがちなのは覚えられないし、差別化できないので。われわれ2人とも国文学出身で競技かるたサークルの先輩後輩なんです。古典とか日本語の名前でいろいろ考えて。古今とか新古今は、会社の名前になりづらいので……。

大場寧子。Railsエンジニアであり万葉の代表取締役社長。

小沢 うん、古今ってちょっと……。

大場 しかも万葉集のほうが好きだった。私たち言葉が好きなんですよ。で、万葉だと葉っぱが入っていて、よろず言の葉っていうのがしっくりくるなって。

松永 最初はお2人で会社を作られて、もめたりしなかったんですか?

久保・大場 しましたー!(笑)。

大場 サークルの先輩後輩だったうえに、別の会社で一緒に働いたことがあるんです。いずれ2人でやりたいと思っていたので、久保さんちょっと会社作らない?って。設立の相談のときは5分くらいでいいよ。となってあとは飲んでたっていう。で、作るときに占い師さんに相談に行って、やめたほうがいいって言われて(笑)。

久保 せっかく今お友達なのに、わざわざその関係崩すことないわよって。

久保優子。転職の手違いでエンジニアになってしまった。万葉の歌って踊れる専務取締役。

大場 だがやる!ってそのままやったんです。半年ぐらいで壁がきましたね。占いの人が言ってたのはこれか!って。会社の起業に、ビジョナリーと管理者と工場長、3人の役割がいるって話があって。彼女は完全にすばらしい管理者。私はどっちかっていうと工場長なんです。ビジョナリーは補い合ったり足りないままに進んでるって感じですけど。管理者は当然こうしたいっていうのと、工場長の観点ではいやそれは、みたいな。ぶつかるんですよね。

松永注:アップルでは、ジョブズがビジョナリー、ウォズが工場長、それだけじゃ会社がめちゃくちゃになるというので呼ばれた管理者がマイク・スコットですね。


スティーブ・ジョブズ


スティーブ・ウォズニアック


マイク・スコット

久保 私はきっちりやりたいのに、なんで気まぐれでふりまわすの?みたいな。

大場 私は自由が大好きで(笑)。がんじがらめはいやだなっていう気持ちがあったんですよね。

妹尾朝子(以下、妹尾) 付き合いたての男女の話を話をきいているような(笑)。

大場 近いですよね。ぶつかったところでいろいろ話し合って乗り越えたのが自信になって。その後衝突しても、あれを乗り越えたんだからちゃんとできる。解決できるかなっていう気がするんですよね。

久保 新宿駅の構内で泣きながらケンカしました。夜の11時ぐらい。

大場 覚えてないよそんなの(笑)。

久保 こういうところなんですよ! 覚えてないって言うんですよもうー(笑)。

手作りの会社

松永 会社として仕事を広げたプロセスは?

大場 大きな転機は、初めて知り合いじゃない1人目を採用したとき。そのためにオフィスを借りたんです。それまで彼女の自宅をオフィスにしていて。従業員を採るにあたって、会社で整理する必要量がぜんぜん違うんです。保険とか規程とか。

久保 社則とか有給とか勤務時間とか。われわれだけだったらそんなこと決めなくていいのに、整備しないと。

妹尾 そういうのは専門家とか入れたんですか?

大場 入れない。完全に手作り。

小沢 すごい!

久保 定款と登記も私がやりました!

大場 あれでしょ、現場に行って、おじさんつかまえて聞いたりとか。

久保 それは年末調整ですね。書類一式税務署に持って行って、わかりませんって言ったら、隣のテーブルでていねいに教えてくださって。江東西税務署はすばらしい!

松永注:これ、アップルよりすごいんじゃないでしょうか

大場 久保さんそういうところすごい頼りになって。エンジニアって、見ず知らずの人に聞くって苦手な人が多いんですが、彼女はオールラウンドでできる。少々用意したものが足りなくても、また突撃すればいいわー、みたいに果敢に情報集めてくれるんで。

久保 例えば決算とか、絶対的に自分でできないこと以外であれば、調べながらできるなら自分でやった方がいいかなと思って。

大場 今ではコンサルとかお世話になってますけど。お金もそうですよね。最初は私たちが出資して。最初の何年かは銀行から借りないで自分たちの資金だけでやってたんですね。

久保 一番最初が二人で、そのあとに私が先輩をまわって。

大場 かるたマネー。

久保 そうそう。俗にいうカツアゲって言われてるんです(笑)。ちょっと先輩お金出してくれない? みたいな。

小沢 かっこいい先輩多いですねー。


左から松永肇一、小沢高広、妹尾朝子

久保 借金がこわかったのでお金は借りなかったんですけど。あるゴールデンウイーク明け、ふっと朝起きたら、そうだ銀行行こう。お金を借りよう。みたいな気持ちになっていて。大場に話をしたら、私もそう思ってた!って。

大場 ぴったり一致して。そういう感覚はよく合うことが多いので。

小沢 すごいですね。なんかこう、大人の階段上っていくタイミング(笑)。

久保 そのままその日に朝日信金さんというところに行って窓口で、すいません法人なんですけど、お金を借りたいんですけどどうしたらいいですかー?

全員 (笑)

大場 これすごいと思うんです。なかなかできない。

小沢 ものすごい用件が的確に短くつまっている。向こうのリアクションは?

久保 奥にとおしてくださって話聞いてくださって。今度お伺いしていいですか?って来ていただいて2期前の決算書類とか見て。付き合いを作りたいだけだから200万円ぐらいって言ってたんですけど、いや500万円いけます。500万借りましょうってすごい言われて。500万はちょっと、みたいな。

大場 なつかしいですね。

久保 そう、500万でビビってたあの頃(笑)。

松永 鳥井さんはどういうきっかけで?

松永注:鳥井さんはうめ・松永共通の友人で、今回のインタビューのきっかけになりました。

鳥井雪(以下、鳥井) 前職がテストを書くという文化がなくて、書いていそうな会社に殴り込みに行った。テストっていうのは、コードが動くときにもう1個プログラミングを作って、それを動かすと自動的に使いたいプログラムが動いてることをテストできるっていう……。

鳥井雪。万葉の技術開発部所属。

久保 検証用のコードですよね。実際に動くコードとは別。ちゃんと動いていることを確認する検証のためのコード。

鳥井 もとの会社で技術的な向上はこれ以上難しいなって。

松永 それこそエンジニア的な、オタク的な話ですけど、Railsを使ってるのは最初からですか?

大場 はい、最初からです。

松永 いいですよね。Rails(笑)。

鳥井 いいですよねー(笑)。

大場 人がいいんですよね、Ruby業界って。わりと一定の価値観におさまるというか。当然テストいいよねとか。仕事外の付き合いとかも好きだったり、まあ例えばお酒好きだったり。会社間のつながりよりぜんぜん濃密で。

鳥井 RubyとRailsを使うコミュニティがけっこう豊かっていうのがよく言われてて。会社を離れて、技術の交換をしあったり、初心者にプログラミングを教えたり。そういう集まりがちょいちょいあるんですよ。

松永注:Rubyとはプログラム言語の名前。RailsとはWebサイトを作るためのRuby用のツールの名前。日本中のあちこちで勉強会が毎週のように開催されているぐらいにユーザーが活発。

小沢 漫画で言うと、使ってるアプリごとにたまに勉強会やるんです。コミスタだったり、Photoshopだったり。そういうつながりに近いですね。

大場 そうですね。近いと思います。

勇気をもって楽しく開発

松永 社風について。急にまじめな質問しちゃって(笑)。どういう風に仕事されて、どういうビジョンで会社を運営されているかってのをよく存じ上げてなくて。

松永注:万葉は受託開発がメイン。つまり他社のお手伝いをする会社です

大場 基本的なビジョンは、開発が好きなわれわれが、開発を通じてお客さまの役にたって、開発をしながら食べていく、楽しくやっていくがメイン。ポイントはコミュニケーションの質。技術者ってありがちなのが技術者用語で話したり、お客さま目線で受け答えたりできない。作るもののレベルで話しちゃうとこがあるので、お客さま目線で話ができるとか、わかりやすい説明ができるとか、感じがいいとか。

小沢 感じがいい。大事ですよね。

大場 ありがちなのが、案件取ると防衛的になっちゃうんですよ。仕様変更になるのでお金かかりますとかできませんとか。そういう攻防が嫌なので、変更するんであればしますよ。するんですけれども、ここはあまり必要なさそうなんで今回見送りません?みたいに。相手にとって楽というか、へんに敵対関係にはならない。ちゃんと協力して最後までやるっていうことを大事にしてます。

妹尾 なんか、社風じゃなくて、大事にしてることがいくつか書いてあって。

大場 「7つの価値観」ですね。「使われるソフトウエア」、「すばらしいソフトウエア」とか。いくつか掲げてます。

松永注:「7つの価値観」は、2016年1月から3つに集約されて、「勇気」は「自発的に動き、挑戦する」に統合されました。

妹尾 他のはなんとなくわかるなーわかるなー。最後に「勇気」? なんだ?って。それはなにか理由が?

大場 いろいろな価値観があると思うんですけど。お客さまがなにか言ったときに、そうじゃないほうがいいなと思ったら言わなきゃいけないケースもあるんですよね。その機能は作ると重荷になりますとか。急いでる場合に、テストに時間かけないで早くリリースしようよ、みたいな場合もけっこうあるんですよ。本体のプログラムが正しく動いていればそれは使えるので。テスト書かないで節約と言われても、いやいやテストは必要です。どこかでは書く必要がありますよ、とか。興味なかったり、聞きたくないことも言わなきゃいけない。それをやらないと、エンジニアの幸せとお客さまの幸せが乖離して楽しく仕事できなくなってしまうし、乖離してしまったら、結局、システムを維持していきたいお客様の幸せにも繋がらない。われわれとしていい開発と、お客さまにとっての価値を重ね合わせ続ける必要があって、そのためには勇気ある発言が欠かせない。という想いであれを入れています。

妹尾 なるほど。

鳥井 今初めて聞きました。そうだったんですねー(笑)。

大場 勇気が出なくて乖離していくっていう経験、もっと勇気を出してほしいなっていう場面を個人的に感じていたっていうのもありますかね。あと、勇気出すと、余計なこと言ってーみたいなペナルティもあるので。言った者損になりたくないので、たとえうまくいかなくても言うことはいいよね、みたいにエンカレッジしたい気持ちもあって。

妹尾 そうですね。ちょっとしたことだったりするんですよね。言ってみればいいのに言わない。

大場 言ってうまくいかないケースももちろんあるけれど、言ってみることは会社としてはとてもいいことだと思ってるよ、っていうのはメッセージを出したいみたいな。

小沢 それがちゃんと言語化されて「勇気」って入ってると、書いてあるし!っていう後押しをされますよねすごく。

松永 あと、外から見たときに、この会社に入りたいって思うような指針は、みなさんなにを見て?

大場 圧倒的に多いのは、開発者が楽しく開発するっていうことに惹かれて来られる方が多いような気がします。

鳥井 だいたい技術者みんなおしゃべりなので、辛い顔してるとばれるんです(笑)。仕事が楽しそうなんだな? っていうのが伝わるようなしくみになっているので。

妹尾 もっと規模を大きくしたいというのはあるんですか?

大場 やっていてわかったのは、会社というのは少しずつ大きくなるほうが自然だなって思っていて。なんていうか、ずっとそのままでいるのがキープだと思ってたんですけど、それは後退だってわかったんです。

久保 そうですね、まわり続けないと。

大場 説明が難しいんですけど、地面がちょっとずつ動いてる感じなんです。地面の動きに合わせてわれわれも動いておく必要があって、留まりつづけるっていうのはすごい相対的に後退っていうのがわかりました。結局私たち年をとるわけで、なにも止まってないんですよね。なので、その流れどおりには動きたいなっていうような。

妹尾 それが結果的には大きくなっていますよっていうことですね。

大場 そうですね。

久保 基本うちは何名採ります! とか大募集とかしたことがなくて。募集は出すんですけど、合う人がいなかったらゼロでいいみたいな感じで。最近は弊社のサイトの募集だけ見て申し込んできてくださる人だけでやってますね。しかもわりとうちのポリシーに共感してくれる人が来てくれるので、非常に楽な。

妹尾 宣伝いらず。

鳥井 Railsの需要が高まっているのか、だいたいなんか同じですね。

久保 追い風でしたね。ほんとにここ(2人)のもめ事以外はまったくもって順調で(笑)。

妹尾 最初の半年ぐらいが一番壁。

小沢 人数少ないうちにそこを擦り合わせができたのが大きいですよね。

大場 そうですね、そう思います。

小沢 別にあの、むりやりスティーブズにからめる必要は……

全員 (笑)

ブランドを作ると顧客がやってきた

大場 お役に立てるかなってじつは思ってるんですけど(笑)。

鳥井 ねー、ぜんぜんAppleっぽくないですから。

松永 Appleってコミュニティを初期に整備しようと思いついた会社のひとつ。会社のファンを増やそうなんて誰も思っていないときに、会報出したりとか、カンファレンスみたいなの開くとか、そういうのを思いついてやったんですよね。

大場 そういう意味では、われわれその後追ってるのがあって。会社作るときに、ブランドイメージをしっかり出していこうって決めて。飛び込み営業とかするよりブランドのイメージをつくって知名度を上げたほうが、向こうからきてくれるから楽だし、ぜひそうしようっていうふうにして。

松永注:例えばアップルはあまり雑誌広告はやらず、記事にしてもらうようはたらきかけた。するとその過程で記者がファンになって、さらに好意的な記事が載る。そういうのを狙ってやっていたそうです。

小沢 そのへん似てますね。

大場 そうですね、それはすごくやりました。

久保 なので、私営業ですけど、ほんとに飛び込みというか自分からお仕事を取りにいくみたいな営業をあまりしたことがなくて。既存のお客様に、もうちょっと増やしますー? みたいな売り込みくらいしかしてないです。

鳥井 あとは全部外から。

大場 そうですね、突然メールが来たり。

久保 電話が来たりとかいうのを対応してるだけで、こちらからすごい働きかけて仕事をとらなきゃー、ノルマがー、みたいなことは思ったことがない。

大場 なので、その作戦自体は当たった気がします。

松永 いろいろおもしろい話が聞けました。

鳥井 そうですか、よかったです。

大場 だといいんですが(笑)。

この連載について

スティーブズの会社訪問記

うめ(小沢高広・妹尾朝子)

アップル創世記をテーマにしたコミック『スティーブズ』を描くスティーブズチームの面々が、「会社を作る」ってどういうことか知るための社会勉強。

関連記事

関連キーワード

コメント

kamatamadai ジャストシステムの話など、出ていない 2年以上前 replyretweetfavorite

MLO_Night 松永さんこんなこと始めたのかww https://t.co/yXCzfj5Zlb 2年以上前 replyretweetfavorite

matsunatsu うわー!面白い!読んで読んでこれ読んで! 2年以上前 replyretweetfavorite

lucky_rabbit_ 最初にきちんとケンカしてる、大切なビジネスパートナーでかつ友達としっかりガチンコでぶつかり合えることこそ「勇気」。 https://t.co/14jhofuOnK 2年以上前 replyretweetfavorite