幸せになる勇気

青年は憤る。「やっぱりアドラーは宗教だ!」

先生は理想論ばかりを語り、現実の具体的な話をしていない。知りたいのは空論ではなく実論だと、怒りをあらわにして詰め寄る青年。そんな青年を諭すように、哲人は断言します。教育も、指導も、援助も、そのすべての入り口は「尊敬」であると。100万部を突破したベストセラー『嫌われる勇気』待望の続編『幸せになる勇気』より、第一部を特別掲載いたします。

 3年前の青年は、哲人の口から語られるアドラーの思想に驚き、疑い、感情的に反発するのが精いっぱいだった。しかし今回は違う。もはやアドラー心理学の骨格は十分に理解し、現実社会での経験も積んでいる。この、実地での経験という意味においては、むしろ自分のほうがより多くのことを学んできたとさえ言える。今回、青年のプランは明確だった。抽象ではなく、具体の話を。理論ではなく、実践の話を。そして理想ではなく、現実の話を。わたしが知りたいのはそれであり、アドラーの弱点もそこにあるのだ。

尊敬とは「ありのままにその人を見る」こと

哲人 具体的にどこからはじめればいいのか。教育、指導、援助が「自立」という目標を掲げるとき、その入口はどこにあるのか。たしかに悩むところでしょう。しかし、ここには明確な指針があります。

青年 聞きましょう。

哲人 答えはひとつ、「尊敬」です。

青年 尊敬?

哲人 ええ。教育の入口は、それ以外にありえません。

青年 それはまた、意外な答えですね! つまりあれですか、親を尊敬しろ、教師を尊敬しろ、上司を尊敬しろ、というわけですか?

哲人 違います。たとえば学級の場合、まずは「あなた」が子どもたちに対して尊敬の念を持つ。すべてはそこからはじまります。

青年 わたしが? 5分と黙って人の話を聞くことのできないあの子たちを?

哲人 ええ。これは親子であれ、あるいは会社組織のなかであれ、どのような対人関係でも同じです。まずは親が子どもを尊敬し、上司が部下を尊敬する。役割として「教える側」に立っている人間が、「教えられる側」に立つ人間のことを敬う。尊敬なきところに良好な対人関係は生まれず、良好な関係なくして言葉を届けることはできません。

青年 どんな問題児でも尊敬しろと?

哲人 ええ。根源にあるのは「人間への尊敬」なのですから。特定の他者を尊敬するのではなく、家族や友人、通りすがりの見知らぬ人々、さらには生涯会うことのない異国の人々まで、ありとあらゆる他者を尊敬するのです。

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幸せになる勇気―――自己啓発の源流「アドラー」の教えII

--- - "岸見 一郎" - "古賀 史健"
ダイヤモンド社
2016-02-26

この連載について

初回を読む
幸せになる勇気

岸見一郎 /古賀史健

『嫌われる勇気』から3年後、教師になった青年は再び、哲人のもとを訪ねる。「アドラーを捨てる」という、思ってもみなかった決意を胸にして。本当に「世界はシンプルであり、人生もまたシンプル」なのか。それとも「アドラー心理学」は現...もっと読む

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コメント

mihokomidori 「親が子どもを尊敬し、上司が部下を尊敬する」 著者: 岸見一郎 / 古賀史健『 2年以上前 replyretweetfavorite

AKKmusik おもしろい。「尊敬とは、人間の姿をありのままに見て、その人が唯一無二の存在であることを知る能力のことである」「尊敬とは、その人が、その人らしく成長発展していけるよう、気づかうことである」https://t.co/3pvhNbI4NR 2年以上前 replyretweetfavorite

suguruko "尊敬とは、人間の姿をありのままに見て、その人が唯一無二の存在であることを知る能力” 人として向き合う能力。 2年以上前 replyretweetfavorite

fumiken ああ、最高のほめことば! ブックデザイナーさんにお伝えしておきます! 2年以上前 replyretweetfavorite