教育の目標は「自立」である
哲人 さあ、どこからいきますか?
青年 いま、わたしが抱える喫緊の課題は、やはり教育です。教育を軸に、アドラーの矛盾を暴いていきましょう。アドラーの思想はその根本において、あらゆる「教育」と相容れないところがあるのですから。
哲人 なるほど、おもしろそうです。
青年 アドラー心理学には「課題の分離」という考え方がありますよね? 人生のあらゆる物事について「これは誰の課題なのか?」という観点から、「自分の課題」と「他者の課題」を切り分けて考える。たとえばわたしが、上司に嫌われているとする。当然、気持ちよくはありません。なんとか好かれよう、認めてもらおうと、努力するのが普通です。
しかしアドラーは、それは間違っていると断ずる。わたしの言動、またわたしという人間について、他者(上司)がどのような評価を下すのか。これはその上司の課題(他者の課題)であって、わたしにコントロールできるものではない。わたしがどれだけ好かれる努力をしても、上司はわたしを嫌ったままかもしれない。
そこでアドラーは言うわけです。「あなたは他者の期待を満たすために生きているのではない」。そして「他者もまた、あなたの期待を満たすために生きているのではない」と。他者の視線に怯えず、他者からの評価を気にせず、他者からの承認も求めない。ただ自らの信じる最良の道を選ぶ。さらには他者の課題に介入してはいけないし、自分の課題に他者を介入させてもいけないと。はじめてアドラー心理学に触れる者にとって、大きな衝撃をもたらす概念です。
哲人 ええ。「課題の分離」ができれば、対人関係の悩みはかなり軽減されます。
青年 さらに先生は、こうおっしゃいました。それが誰の課題であるのか、見分ける方法は簡単である。「その選択によってもたらされる結末を、最終的に引き受けるのは誰なのか?」。これを考えればいいのだと。間違っていませんね?
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