八百屋で試される勇気

こんにちは、編集Nです。いきなりすいません。臆病すぎる文月悠光さんにほとほと困り果てて、これはもうみなさんに訴えるしかない、と思い、こうして直に語りかけています。リードってのは編集者が書くんですね。ですから、いくら著者といっても手が出せない領域です。ふふふ。ふははははは。
さて、八百屋にも行ったことがないとのたまうナイナイづくしの〈臆病な詩人〉文月悠光さん。もったいない。実にもったいない。八百屋っていいもんですよ。先日も黒あわび茸という、珍しいキノコが180円で売っていまして、塩とオリーブオイルで炒めたらたいへん美味でした。こういうのは大手スーパーでは手に入りません。そもそも……(以下略)

 こんにちは、詩人のふづきです。いきなりすいません。ほとほと困り果てて、これはもうみなさんに訴えるしかない、と思い、こうして直に語りかけています。

 今回の〈街へ出る〉は、八百屋です。言っちゃ悪いですが、詩人と八百屋、地味すぎやしませんか? 合コンにもスポーツ観戦にも行けない腰抜けは「まず八百屋から出直してこい」ってことでしょうか? ひどいです。仮にも今年25歳。「はじめてのおつかい」じゃ困るんです。

 担当編集者のN氏に抗議しようと思いましたが、N氏が八百屋の話をしながら、とっても楽しそうなんですね。「ふへー」と感心したり半ば呆れたりしている内に、まあ調子よく乗せられてしまいました。ああ、わたしは八百屋を愛せるのでしょうか……。

 発端は去年の十一月。連載に関する初めての打ち合わせを終え、最寄りの駅まで歩いていたときのことだ。編集者のN氏が「あっ」と立ち止まった。

「いい感じの八百屋がありますね!」

 この町に引っ越してから1年半、何百回とこの八百屋の前を通り過ぎていたけれど、私が店に立ち寄ったことは一度もない。ていうか、ここ八百屋だったのか。

「八百屋に『いい感じ』とかあるんですか」と尋ねた私に、N氏の左目が輝いた。

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臆病な詩人、街へ出る。

文月悠光

〈16歳で現代詩手帖賞を受賞〉〈高校3年で中原中也賞最年少受賞〉〈丸山豊記念現代詩賞を最年少受賞〉。かつて早熟の天才と騒がれた詩人・文月悠光さん。あの華やかな栄冠の日々から、早8年の月日が過ぎました。東京の大学に進学したものの、就職活...もっと読む

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コメント

hymtk7 > 「……うーん。個人商店って、なんだか『試されてる』感じがしませんか」 約1年前 replyretweetfavorite

YukariWatanabe N氏を知っているだけにクスクス笑いながら読んでしまった。まるで短編小説。 約1年前 replyretweetfavorite

luna_yumi 私は自分で作った料理を美味しそうに撮れた試しがなく、他人の目に触れる場所には一切載せてこなかった。「これで料理したつもり?」とみんなに嘲笑われそうで、ひどく怖いのだ。 ▶︎第4回 |文月悠光 https://t.co/EybzoEp1OF 約1年前 replyretweetfavorite

inumaro 全体を通じた腰の引けっぷりと、野菜のステキな描写との落差がいいなあ ーー 約1年前 replyretweetfavorite