「海いきたいね」それがあの頃の彼女の口癖だった。
上野駅のホームで誤って彼女に送ってしまったフェイスブックの〝友達リクエスト〟。スマホをしばらくの間ジッと眺めていた。反応はない。ひとつ、ため息をついた。この感じは懐かしい。懐かしい痛みを心臓近くで感じている。彼女と一緒だった時、ボクはとにかくいつも待たされていた。
どういう方法で攻めても結局、オセロの盤は一方的に彼女の色に染まってしまう関係だった。あの頃のボクは、円山町のラブホテルで彼女にへばりついて寝ている瞬間だけが、安心で満たされていた気がする。
1999年の春。坂道のふもとにあったセブンイレブンで、ボンゴレパスタとポカリスエットを二人分買い込んで、あのラブホテルに向うのがいつもの定番コースだった。
トイレにはどの部屋にもラッセンのジグソーパズルが飾ってあった。それを見て彼女は、トイレから出てきたら必ず「海いきたいね」と言っていた。