「ダブルベッドの部屋を用意するんで」
マネージャーは私に、こともなげにそう言った。
芸能事務所に所属して5年、妻と出会って4年になる。
つまりは、わりと所属したての頃に妻と出会って恋に落ちたのだが、それを事務所に言う勇気はなかった。
当時の私はこう思っていた。
(私が同性愛者だと知られたら、私は事務所をクビになる。共演アイドルやそのファンからも警戒されるし、シェアハウスの女子部屋にも居場所がなくなる。つまりは、終わる。私は終わるんだ。私は、私の大好きな女の子たちに、キモがられ距離を置かれ警戒される存在として日陰で生きていくほかなくなるんだ……)
そう思い込んで怯えきっていた2011年のことを思うと、私には、2016年にマネージャーが言ってくれたことが夢のように思えた。
2016年現在、私は、芸能事務所の女子寮で寮母をしている。
寮オープンにあたり、事務所は、妻と私が住むための部屋を用意してくれた。
しかも、ダブルベッドの。
そのうえ、同じ寮には女優さんふたりと、アイドルからアーティストへ羽化していこうとしている女の子ひとりも住んでいる。それぞれが自分の寝室を持っており、リビングと倉庫と水回りだけが共用というかたちである。
みんな——女の子の親御さんも含めて——妻と私の関係を知っており、寮の本棚には妻と私が登場するマンガ『同居人の美少女がレズビアンだった件。』やら、私の新刊『同性愛は「病気」なの? 僕たちを振り分けた 世界の「同性愛診断法」クロニクル』なんかも堂々と並んでいる。
私は思う。
やばくね?
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