A.クッキングパパの恋に破れた後に、ダメ男・田中の妻となった夢子。まったく私生活が見えないミステリアスな彼女の正体は、まさかアンドロイド…!?
初期クッキングパパにおいて、上司であるクッキングパパ・荒岩に恋をし、不倫とまではいかないけれど「社内嫁」とも言えるポジションを築き上げた女性・木村夢子。その後、彼女が同僚で後輩の田中と結婚するストーリーは、クッキングパパのなかでも重要なパート。しかし私は、夢子に対してちょっと疑問を持っている。
夢子は、謎の多すぎる女なのだ。
○36巻 cook.362 P166 目が飛び出るほどの美人©うえやまとち/講談社
上のページで、夢子を見た田中の弟の目が飛び出ているのを見ていただければわかると思うが、夢子は10人中10人に「すごい美人」と思われるような美女。
金丸産業では荒岩のもとで事務処理や資料の作成など、営業補佐として働いている。キャリアウーマン指向ではないが、貧血で早退したときに同僚からは「夢ちゃんがいないともうなにがどこにあるのやら……」「うちの班の歩くコンピューターだもんねッ」と言われるなど、任された仕事だけではなく備品の管理などもするなど、雑用も率先してするタイプ。荒岩からの信用も厚く、残業も快く引き受ける。自分を主張することなく、与えられた仕事を痒いところに手が届くようにこなす、そんなタイプの優秀なOLだと思える。
事実、夢子がミスをしたというシーンは、退職するまで一度もない。
それだけでなく、会議のために3日がかりで完璧につくりあげた資料をダメ男・田中が無くしてしまっても「コピーとってなかったあたしも悪いんだしー 一晩徹夜すればできると思うわ」と快く許すくらいの大きな心の持ち主。
○30巻 cook.294 P42 許す女・夢子©うえやまとち/講談社
夢子の性格が激変……その間一体なにがあった!?
しかし夢子は最初からこのソツなく、聖人のような性格だったわけではない。
夢子は連載初期は相当にハッチャケた性格であった。
荒岩への恋心を隠さず、荒岩の妻・虹子が取材で留守と知るや「今日奥さんいないんですか 今日遊びにいこうかなー主任さんちにーっ」と言って荒岩の心を揺さぶりにかかるなど、かなり小悪魔的にふるまっていたのだ。
○1巻 cook.5 P67 揺さぶりにかかる夢子©うえやまとち/講談社
それだけでなくさりげなくボディタッチを繰り返したり、どさくさにまぎれて頬にキッスをぶちかましたり、かなりの自由奔放さ。しかしこの夢子の小悪魔期は長く続かず、急速に分別のついた真面目な性格に急変するのだ。一体この時期、なにがあったのだろう。
夢子はダメ男を甘やかすために開発されたアンドロイドか
夢子はこの性格の急変のほかにも、謎がある。夢子が一体なにが好きで、どんな趣味なのかあまりわからないのだ。
博多という都会で暮らし、金丸産業という一流企業に勤めているのであれば、事務職のOLよりもお給料はいいはず。現代の女性だったら華やかにお洒落を楽しんだり、自分の趣味に気兼ねなくお金を使えたり、友だちと飲みに出かけたり、いくらでも楽しく過ごせるはず。
しかし夢子が博多で「貝塚アパート」でひとり暮らしをしている部屋を見ていただこう。
○36巻 cook.354 P27 座椅子カバーの衝撃©うえやまとち/講談社
……このとき夢子は20代後半のはずだが、当時は1994年ということを差し引いても、若い女性の部屋っぽさがまるでない。消費社会の香りがまったくしないのだ。バラをワイングラスに生けるセンス、年季の入った座椅子カバー、柱に掛けられた帽子の飾り物……この既視感はなんだろう……と思ったら、あれだ。おばあちゃんの家だ。ちなみにこの「LARK」のゴミ箱は夢子が22歳のときから部屋にあった。夢子はモノ持ちのよい女なのだ。
そして夢子がプライベートでこの部屋でなにをしているかというと、近所のパン屋の息子の幼稚園児・大介くんの面倒を見ているのである。ますますおばあちゃんだ。
○23巻 cook.224 P40 夢子の恋人ヅラをする大介君©うえやまとち/講談社
そもそも未婚の若い女性がなぜそんなことをするのか謎なのだけれど、夢子はたまに大介君を預かっているようで、大介君は夢子の家で夕飯を食べることもある。大介君はかなりワガママな子で、夢子に「ふりかけをくれ」「お茶」など、なんかもう「嫁」扱いしているが夢子はそれに対してたしなめるでもなく「はいはい」と笑顔で許容している。
これは単なる「子供好き」ということでいいんだろうか……。
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