武田砂鉄は事故物件である。

自分の「クズ」な部分を燃料にして、ものを書いているという武田砂鉄さん。深澤真紀さんはそんな武田さんのような存在が論壇界に現れることを待ち望んでいたと言います。そんな武田さんは、今後どのようなスタンスで書きを続けていくのでしょうか?

他人の足をひっかけ続けるしかない

深澤真紀(以下、深澤) 私もそうだけど武田さんも、他の人たちが見逃してる「ちょっとしたこと」に対していちいち怒ってるめんどくさい人種ですよね。そして勝手に徒労を感じているという。

武田砂鉄(以下、武田) 前回も話に出ましたが、八代亜紀さんにインタビューした時、八代さんが「自分で『大スター』って言う人は『小スター』よね(笑)。そういう人は、足をポンって出すのね。そして、それにつまずいてコケた人を見て喜んでるの」と仰っていたんです。納得します。と同時に、自分みたいな小物はどんどん、大物の足を引っ掛けていく必要があるんじゃないかとも思う。無論、ただただ嘲笑う目的ではなく。このご時世、幸か不幸か、足を引っ掛けるべき大物がそこらじゅうを駆け回ってるわけですが。

深澤 ほんとにたくさんいます。

武田 その足の引っ掛け方にはバリエーションを持たせなきゃいけない。右足だけじゃなくて左足も出してみたり、棒を出してみたり、バナナの皮を置いてみたり。そのバリエーションを増やしていく。そうすれば、自分の存在も飽きられないようにできるかもしれないし、筋トレのように自分を鍛えることもできる。

深澤 武田砂鉄って、思ったより前向きな人だ(笑)。

武田 ファンキー・モンキー・ベイビーズ的な前向きではなく、後ろ盾がないので前を向くしかないということです。今は、どんな場面でも、とにかくフラットであるべきだとか、中立公正であろうとする働きかけが目立つわけですが、そもそもそういう状況などあり得ないと思っていますし。

深澤 それが理想だとも思っていないんですね。

武田 思えないですね。何かに対して、理想の形、理想の状況を考えることを最優先にしないですね。

深澤 武田さんは、理想をかかげる人にだって足を引っ掛ける(笑)。

武田 それがモノを書く仕事の大きな動機にもなり得ると思っているので。目の前の問題についてではなく、理想型についてばかり語るのは好きではありません。理想って何回もリニューアルオープンできるじゃないですか。例えば「新国立競技場を街と調和させるために自分ならこういうプランを提示する。あるべき東京は……」と提言する前に、高騰する建設費を突つくのが、モノ書きの仕事としては自然なことだと僕自身は思っています。

深澤 でも、理想というものをまったく抱かないで何かを叩くのは難しくないですか?

武田 理想を用意しているかいないか、その有無は、目の前の問題を考えることとは関係ないと思っています。

深澤 じゃあ誰が考えればいいんですか?

武田 その理想って、最近の政策論争だと「代替案」「対案」なんて言葉に該当するのかもしれませんが、理想を持つ人でなければ議論してはいけないという論調をおかしく思っています。かびた利権の中でごちゃごちゃ動いている人たちをつかまえて「それはおかしい」と指摘していく。理想や代替案を出した人たちだけに、議論して良しとパスポートが配布されるのは間違っていると思います。参加条件ばかりが議論されてしまう気がします。

深澤 ただこのまま、ずっと人の足を引っかけ続けるだけでいるのも難しくないですか?

武田 「足を引っかけ続ける」ことを、「だけ」と言うほどに単純なものだとは考えていません。それに、明日の自分だってどういう考えになってるかわからないので、未来ではなく、そのときの自分がその都度考えていくということをまず徹底したい。前にも言ったように、もしかしたら半月後には深澤真紀という存在が大嫌いになっているかもしれませんし(笑)。

深澤 お互いに嫌いになっている可能性はありますからね(笑)。ただ私は50歳近くになって、大学で教えるようにもなったりして、若者に責任を果たさないといけないとか色々考えるようになって、我ながら順調に“老害化”がはじまってきたんですよ。
 ずーっと「草食男子問題の敗戦処理をします」というだけでやっていけないし、しかもこの歳になると、いろいろな仕事が“消化試合”にもなってくる部分がある。

武田 消化試合だと自覚しながら試合に臨むのはなかなかきつそうですね。

深澤 そう、敗戦処理と消化試合で仕事し続けるのはきつい(笑)。もう25年以上働いてるし、あと10年ちょっとで60歳だし、自分がどうなるかの方向もなんとなく想像がついてくる。そしたらある種の理想のようなものが必要になってきてしまった。それによって自分の存在が抑圧的になる危険もあるとはわかっているんですが。

武田 こういう時に、自分のサークルを持っておくと楽なんですよきっと。深澤サークル(笑)。

深澤 私にはサークルがないからこんなに徒労感があるのか。じゃあいっそ作っちゃうか、って、ぜったいイヤですよ(笑)。

武田 作ったらいいじゃないですか。

深澤 サークルに入るのは孤独からの逃避だし、武田さんだってサークル嫌いじゃない(笑)。そもそも私は学生時代から、誰かとつるんではすぐにもめて解散しているんですね。まあだいたい私の方に責任があるんですけど。
 ただ、これから作るのは簡単ですよ。たとえば自分が教えている学生を洗脳すればいいし、そういうことしている人もいますからね。でもそれは安易すぎる。大学の講義でも、最初に「私の言うことは一切信用しちゃだめだよ。これは私の偏見に過ぎないんだからね」って言うようにしています。そうすると学生はびっくりしちゃいますけどね。

武田 僕も編集者時代に何度か、美大の小説家志望ばかりの授業で講義をして、同じようなことを言いました。散々喋ったあとで、「えっと、小説家になれる可能性がある人って、僕が今説明したようなことを信じない人たちだと思います。カネもらって教壇で話しているこんな奴の話聞いたってしょうがない、と思っている人たちの小説を読んでみたいです」って言ったら、ノートをとっていた受講生はみんな呆然としてました。でもやっぱり、人の話なんか信じないっていうことは大事ですよね。

自分のクズが不快

深澤 私も武田さんも、基本的には人を洗脳せず、憧れの目標にされるような存在にもならないように気をつけているとは思うんだけど、一方で武田さんは今の若いライターの目標にされてますよね。

武田 えっ、そんなことないと思いますけど……聞いたこともない。本当だったらその人たちマズいですよ。仲良く認め合っている友だちが離れていきますよ(笑)。

深澤 最近若いライターに会うと「武田さんみたいになりたいっす」とよく聞きますよ。でも彼らはよくわかってないんでしょう、武田砂鉄という人間を(笑)。あなたにできるのは、彼らを裏切り続けていくことでしょうね。

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共感しない、させない戦い方

武田砂鉄 /深澤真紀

「草食男子」「肉食女子」という言葉を生み出したコラムニスト・深澤真紀さんと、昨年ドゥマゴ文学賞を受賞し、cakesでは「ワダアキ考」でお馴染みのライター・武田砂鉄さん。元編集者であり、現在はさまざまな媒体で活躍するお二人が、現代におけ...もっと読む

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コメント

AlonzoCoop なんとなく、面白かった。 1年以上前 replyretweetfavorite

skbluegreen 自分を「老害」「事故物件」と自覚し、わかっていて不快になりながらも、諦めず止めずに発言していく。だからこの方達、頼もしい![ 1年以上前 replyretweetfavorite

masayakondo 「時には機嫌を乱してでも、これおかしくないっすか、を繰り返していく。原稿を書くのは慈善事業でも感動ビジネスでもない」> 1年以上前 replyretweetfavorite

kiq “理想や代替案を出した人たちだけに、議論して良しとパスポートが配布されるのは間違っている”大阪市廃止構想に対してそう思ってる 1年以上前 replyretweetfavorite