最初は、意外な感じがした。違和感、といってもいいくらいだった。保坂和志さんが絵本を書くなんて、いったいどんな心境の動きがあったのかと。
いや、絵本づくりを手がける小説家は数多くいて、行為自体が新奇なわけじゃない。けれど保坂さんの場合ふだん、深く、丹念に、登場人物の考えの道筋をたどっていく。または、視覚の動きそのものを言葉で書き記していくことを試みる。そうした「考える」や「書く」の探究を、これまでの作品で為してきたのだと思っていた。文章自体が短く、「考える」や「書く」を突き詰めるというより先にビジュアルで訴えかけようとする絵本という形態と、これまでの保坂作品とは、かなり遠い位置にある気がした。
でも一読して、それは思い込みだったとわかった。保坂さんの文章、画家・小沢さかえさんの絵による『チャーちゃん』は、直接脳に響いてくるような、絵本ならではの読み味に満ちたものだった。一気に読み通せる勢いのよさと、ページをいったりきたり、何度も目を通したくなる中毒性もある。
つまりは、絵本らしさがしっかりとある。ただし内容としては、生と死のことが、正面から扱われていて、そのあたりはなんとも保坂作品らしい。
死んだらどうなってしまうんだろう。幼少のころに初めてそんな思いを抱いて、怖くて眠れなくなった時期があった。その答えはおとなになっても見つからないままだけど、『チャーちゃん』を読むと、その糸口がつかめそうな気がした。長年の疑問の答えがここにあるのではと、驚かされた。
自分が死んだらどうなるか、考えたことがない
ぼく、チャーちゃん。
はっきり言って、いま死んでます。
『チャーちゃん』より
読んだ感想はほんとうにいろいろなんです。そうやって自分の死のことを考える人もいるし、過去に飼っていた猫や犬のことを思い出す人、もう亡くなっただれかに気持ちがいく人も。
と保坂さん。そう、チャーちゃんというのは、かつて保坂さんが飼っていて、若くしてこの世を去った愛猫の名前。「はっきり言って、いま死んでます」とみずから宣言するチャーちゃんが、いまどのように過ごしているのかを描いている。ともに暮らしていて、すでにこの世にはいない猫や犬がいる人は、そこに思いを馳せるのも当然だ。
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