不時着した飛行機からどのように生還するか?
—— 鳩山さんの今回の本に一貫して書かれているのは、「どうやって自分で仕事をやりきるかってこと」と、「どうやって仕事を人に任せるか」ってことですよね。それができれば仕事は大きくなっていくっていう。
鳩山玲人(以下、鳩山) 今日本でもコーポレート・ガバナンス(企業統治)が注目されますけど、意思決定って一人じゃなくて複数で判断したほうが決定力が上がっていくんです。
—— え、そうなんですか?
鳩山 ハーバードのリーダーシッププログラムで出たんですが、飛行機が北欧のある山に不時着して、そこからどうやって生き残るか、っていう設問があるんです。30個のアイテムがあるけど、10個しか持ち出すことができないというルールなんですが、そこにサバイバルのプロフェッショナルがいても、4人ぐらいで意思決定したほうが良い結果に繋がることが多いんです。
—— 面白そうな問題ですね。
鳩山 僕は日本人だからアジアになじみがありますよね。アジアって水が悪いから、まず水のことを考えてしまうんです。海外では水の確保が大変だぞと。それでアイテムに浄水機器を入れてしまうんですが、北欧の人は普段からそこら辺の水を飲んでいるから、そんなものいらないくらい水がきれいって知っているんです。
—— ああ、なるほど。
鳩山 持ち出せるのは10個しかないから、何を選ぶのかは命がけです。それを知っているだけで、無駄なアイテムを減らすことができる。その上で、北欧の人もサバイバルのプロの人もいて、複数人でなにを持ち出すか意見を持ち寄れれば、より良い10個を選べますよね。
—— そうやって意思決定したほうが生存率があがるわけですね。
鳩山 それって、俺がやっていることはすべて正しいんだ、って人が他の意見を聞き入れられますか?ってことでもあるんです。そういうトップがいる企業だと、社外取締役を入れるってことにピンとこないんです。複数人で意思決定する意義を知っているか知っていないかだけでも、その人の行動原理が変わってくると思います。
合議制か、トップダウンか
—— 例えばクリエイティブの領域だと、合議制が必ずしもよくない、みたいな言われ方をすることも多いですよね。サンリオもまさにクリエイティブな企業だと思うんですが、このバランスをどう考えてますか?
鳩山 やっぱり、リーダーシップは必要だと思うんです。でもリーダーシップって、必ずしも決めることではなくて、どうやってエンゲージメント(会社に対する愛着)を作っていくかも重要な側面なんですよね。
—— 本当にそのとおりですね。
鳩山 例えばこの本を作るにしたって、僕が編集さんに原稿を渡して、編集さんが営業さんに意見を聞いて、営業さんは書店さんに聞いてって広がっていき、それが編集さんからの原稿の直しに反映されていくわけです。そうやってものを作っていくことがリーダーシップの根源のような気がしています。僕ひとりで書いたものをそのまま出しても、それが本当に面白いものになるのかと思いますよね。
—— クリエイティブに対して自信があるときほど、人の意見って聞けなくなりがちですよね。それでもある程度まではうまくいくんですが、それ以上大きくしたいなら、鳩山さんのおっしゃる「人を任せる」のも大事なんですよね。あるいは見識のある人から意見を聞いたりとか。
鳩山 僕も昔は気合いがあれば自分の力でなんでもできんじゃないか、って思うことが多かったです。でも結局届かない部分もいっぱい出てくるんです。そうすると少しづつ頼るってことを学べました。アメリカにいながら日本の経営戦略を見てヨーロッパでもオペレーションするって、物理的に不可能じゃないですか。そういう自分の限界点より大きい仕事をさせてもらえたことが本当に良かったんだと思います。
—— その考え方って、何度か話に出ているハーバードのビジネススクールやケネディスクールでの経験も大きいんですか。
鳩山 そうですね。
—— では次回は、鳩山さんがこれまで学んできたことを伺いたいと思います。
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