哲学は「物語」を退ける
哲人 宗教も哲学も、そして科学も、出発点は同じです。わたしたちはどこからきたのか。わたしたちはどこにいるのか。そしてわたしたちはどう生きればいいのか。これらの問いから出発したものが、宗教であり、哲学であり、科学です。古代ギリシアにおいては哲学と科学の区分はなく、科学(science)の語源であるラテン語の「scientia」は、単に「知識」という意味でしかありません。
青年 まあ、当時の科学なんてそんなものでしょう。でも問題は、哲学と宗教です。いったい、哲学と宗教はなにが違うのです?
哲人 その前に、両者の共通点を明らかにしておいたほうがいいでしょう。客観的な事実認定にとどまる科学と違って、哲学や宗教では、人間にとっての「真」「善」「美」まで取り扱う。ここは非常に大きなポイントです。
青年 わかります。人間の「心」にまで踏み込んでいくのが哲学であり、宗教である、と。それで両者の相違点、境界線はどこにあるのです? やはり「神がいるのか、いないのか」という、その一点ですか?
哲人 いえ。最大の相違点は「物語」の有無でしょう。宗教は物語によって世界を説明する。言うなれば神は、世界を説明する大きな物語の主人公です。それに対して哲学は、物語を退ける。主人公のいない、抽象の概念によって世界を説明しようとする。
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