乙女ジャンヌ・ダルクの奇跡
ジャンヌ・ダルクは、王太子シャルル7世とジル・ド・レをはじめとする満座の騎士たちの前で、「オルレアンを解放し、ランスで王太子様を王位へつけてごらんにいれます」と宣言しました。そして、フランスのこれ以上ないという窮地が、神の声が聞こえるという以外、何の実績も後ろ盾もない妖しげな少女に、国家の全ての運命を託すことになるのです。
ただ、反発するものも当然出てくるわけで、王太子の側近をつとめていた従兄弟から、ジルはジャンヌのお目付け役を仰せつかります。これが聖なる少女ジャンヌと聖なる怪物ジル、双方の運命を結びつけるきっかけとなるのです。
1429年5月、オルレアンへジャンヌとともに入城したジルは、この少女が大変なかんしゃく持ちであることを知りました。
ジャンヌを総大将とする援軍は、オルレアンの守将デュノワ伯によって、イギリス軍の哨戒線に引っかからないように迂回させられたのですが、戦闘に逸る少女は城門で彼に会うやいなや、
「私を遠回りさせたのはあなた!?」
と噛みついたのです。歴戦の将軍だったデュノワ伯は、小柄な少女にいきなりどやしつけられて、さぞかし目を白黒させたことでしょう。
ジャンヌは入城してからも、「さっさと砦を落とすわよ」と過激な策を主張しては、包囲網の堅固さを知る諸将を苛立たさせます。なかでも、憤怒という異名を持ち、狂犬のような男だった、ラ・イルは強く反発し、反ジャンヌの急先鋒になりました。
しかし、神の乙女と援軍の到着を知った民衆が暴発。勝手にイギリス軍の砦の一つを攻撃しはじめるという事件が発生します。ジャンヌは彼らのもとに駆けつけると、自前の旗を振って激励しました。
イギリスもジャンヌの退路を遮断しようと、軍を派遣するのですが、これは慌てて駆けつけたジルとラ・イルが撃退。そして、3時間もの激戦の末、ついにフランス軍は砦は落としました。鳴り止まぬ民衆の喝采を聞きながら、ジルは自分が確かに何かが生まれ、始まろうとしている現場に立っていることを知りました。
(こんな小さな少女が)
ジャンヌは髪を短く刈りつめ、小さな鎧をつけていました。そのため、流血も乾かぬ戦場にあって、神への祈りを捧げる乙女は、清浄無垢な少年のようにも見えるのでした。