ku:nel』の苦戦と「SNSは緩慢な自殺なのか」問題【第85回】

マガジンハウスが発行するライフスタイル誌『ku:nel』が新編集長を迎えてリニューアル! 記念すべき1月20日発売号のAmazonレビューには、300を超える非難レビューが書き込まれてしまいました。新旧『ku:nel』の違いは? 雑誌としては成功?など、『ku:nel』騒動を好き勝手に語ります!

2月第1週の主なニュース
・ベッキー テレビ全番組を休演を発表(2月1日)
・清原和博、覚せい剤所持容疑で逮捕(2月2日)
・サークルKサンクス、ファミマに統一決定(2月3日)
・鴻海、シャープ買収で大筋合意(2月5日)
・北朝鮮が長距離弾道ミサイルの発射期間を「7~14日」に前倒し(2月6日)

総数300超、『ku:nel』リニューアル号に押し寄せるAmazonレビュー

おぐらりゅうじ(以下、おぐら) 1月20日に発売されたマガジンハウスの雑誌『ku:nel』のリニューアル号が、大変な話題になっています。

ku:nel(クウネル) 2016年 03 月号 [雑誌]
ku:nel(クウネル) 2016年 03 月号 [雑誌]

速水健朗(以下、速水) かつて『Olive』や『anan』を手掛けていた伝説の編集者の淀川美代子氏が編集長となって、50代女性に向けたライフスタイル系雑誌としてリニューアル。ところが、Amazonのカスタマーレビューで大バッシングされている。リニューアルの善し悪しはともかく、このレビュー群が思わず全部読まされてしまったくらいにレベルが高い。

おぐら 現時点で300を越えるレビューが書かれていて、内容は否定的な文章ばかりなのに、すごく叙情的で、この文才には圧倒されますね。

速水 「クウネルの変貌ぶりは、木綿のハンカチーフの歌詞に出てくる彼氏のよう。故郷の良さを忘れ、都会の絵の具に染まってしまったのでしょうか。」っていうのが刺さった。どんなリニューアルだったのかを物語る言葉の強さ。

おぐら 僕は、「淀川さん、あなたと再会するまでの長い時間のなかでOlive少女はとっくの昔に、黒髪の自分がリセエンヌになんかなれないって気付いてたんですよ。」と、「クウネルは大切な魂を売ってしまったのですね。」っていうのがもう……。
※リセエンヌ:フランスの中・高校生の女の子たちのこと。雑誌『Olive』は、第三十五号で「オリーブ少女は、リセエンヌを真似しよう」と題し、大々的なリセエンヌ宣言を始めた。

速水 深いね。かつての雑誌は、アジア人でも「リセエンヌ」になれるとウソをついてくれるような存在だった。だけど、それを乗り越え、フランス人にならなくてもいいんだという答えを示したのが、かつての『ku:nel』だと。なのに、今度のリニューアルは、ここにきてもう一度、50歳で「フランス人」になろうと言い出してしまった。それはこれまでの人生の否定ということになる。

おぐら そして、最後の締めが「その魂は高く売れましたか?ありがとう、さようなら。私のクウネル。」ですよ。

速水 でもさ、雑誌もビジネスである以上、読者の言い分に寄り添うだけでは、立ち行かないという面もあるよね。雑誌の編集部に所属しているおぐら君としては、これをどう見た?

おぐら 目を背けてはいけない、という気持ちで読みましたが、指摘されている内容的には、かなりしんどかったです。美文なだけに、「リニューアルまじでクソすぎ」みたいな文体よりも、よっぽど効きました。僕のいるテレビブロスも2015年に判型を変えて、重要な個性だったモノクロの誌面もカラーになり、表紙から特集に至るまで、とにかく変革を求められたので
雑誌「TVBros.(テレビブロス)」がまさかの巨大化!? リニューアル&GW3週合併号を発売

速水 もちろん、紙の出版物の売上げ低下は過去最大で、雑誌も相当な危機的状況。廃刊も後を絶たない
紙の出版物、落ち込みが止まらない。本屋も激減し、雑誌は前年比91.6%

おぐら 最近だと、創刊37年の『オリ★スタ』が3月で休刊、女性誌『FRaU』が3月号からリニューアル、カルチャー誌『Quick Japan』も新装刊されます。

速水 そんなご時世にマガジンハウスは、リニューアルで成功してきたんだよね。『POPEYE』と『GINZA』の大規模リニューアルが成功。2014年に新創刊の『&Premium』も広告収入で大成功。その流れでの今回の『ku:nel』リニューアルだった。

リセエンヌになれなかったオリーブ少女たち

速水 実際リニューアルってどこが変わったの? 正直、ほかの出版社から出ているライフスタイル誌とそんなに変わらない印象なんだけど。

おぐら いや、その印象こそが正しくて、だから往年の読者は悲痛な叫びを上げたんだと思います。まず、リニューアル号の冒頭に「10年先も『マイ定番』」という新連載がありまして。ここで紹介されているのは、グッチのローファー(¥68,000)やマッキントッシュのコート(¥128,000)、フェンディのバッグ(¥306,000)にクロムハーツのブレスレット(¥140,000)です。

速水 このご時世、ハイブランドの広告出稿なしにはどこの雑誌も成り立たないのは事実。

おぐら そして特集は「フランス女性の生活の知恵。」ということで、肩書き「ブティック責任者」や「イラストレーター」などのレポートが載っています。

速水 わかりやすく「その後のリセエンヌ」路線。オシャレな家具やキッチンのある部屋で、優雅に暮らしている感じの人たちが出てくる。

おぐら ここまで読んだだけでも、リニューアル前の『ku:nel』とは全然違いますよね。かつての『ku:nel』は、たとえばここに2007年の3月号を持って来ましたけど、表紙には色鮮やかなフルーツゼリーが並び、そこに「甘い宝石。」のコピー。誌面に登場するのは、エプロン姿のおばあちゃんと娘と孫たちで、ちゃぶ台を囲んでいるグラビアでカラー1ページ使っています。

速水 すごい地味……。

ku:nel (クウネル) 2007年 03月号 [雑誌]
ku:nel (クウネル) 2007年 03月号 [雑誌]

おぐら 「ライフスタイル」なんてカタカナでは言い表せない、ガチの「暮らし」ですよ。もともと『ku:nel』って、エプロン姿も素敵よね、古い家具も味があっていいのよ、というような思想だったはずなんです。それこそ、手作りのフルーツゼリーこそが「宝石」で、決してクロムハーツではなかった。長く使う定番は、自分たちでせっせと裁縫した巾着袋で、フェンディのバッグじゃない。おばあちゃんの代からずっと実家にある和たんすを褒めてくれるのが『ku:nel』だったのに、パリの高級アンティークショップで売られている家具を紹介されても、いやそれ違うから、ってなるでしょう。

速水 クラフトフェア、ハンドメイド・マーケットの世界だよね。日本では松本市のクラフトフェアが最大で、2日で約5万人規模というからコミケまではいかないけど、地方ではクラフトフェアは、盛んに行われている。東京にいるとわかりにくい現象だけど。

この連載について

初回を読む
すべてのニュースは賞味期限切れである

おぐらりゅうじ / 速水健朗

政治、経済、文化、食など、さまざまジャンルを独特な視線で切り取る速水健朗さんと、『TVブロス』編集部員としてとがった企画を打ち出し、テレビの放送作家としても活躍するおぐらりゅうじさん。この気鋭のふたりのライターが、世の中のニュースを好...もっと読む

この連載の人気記事

関連記事

関連キーワード

コメント

5h4pi 「守るべき文化」って言い方があるよね。実際には、そんなものあるのかって思うけど。「自分は経済的にその分野には寄与できないけど、感情としてなくなったらちょっとうしろめたい」みたいなことでしかない。 4ヶ月前 replyretweetfavorite

syuttyo_okami この二人のクウネル大バッシングの解説対談おもしろい 6ヶ月前 replyretweetfavorite

fujiyuki04 『宣伝会議』で『ku:nel』新編集長のインタビューを読む一方で、同じ日にたまたまケイクスで同誌のリニューアルの評判を読む。Amazonのレビューが‥‥。 ■速水健朗 @gotanda6 /おぐらりゅうじ @oguraryuji https://t.co/f7jDSkFqT5 6ヶ月前 replyretweetfavorite

loveandpearl 旧クウネル事実上の「最終号」、買えて良かった。 これでクウネルの読者層も、ガラリと変わったね。 https://t.co/HOy4KS5frx 6ヶ月前 replyretweetfavorite