第5回】超緩和策で崩壊した“日銀哲学” あるべき姿を見失った中央銀行

世界に類を見ない規模で金融緩和を実施してきた日銀が、なんとも割り切れない表情を見せるのはなぜなのか。そこには、かつての自分とのギャップに戸惑い、自己喪失に陥る姿があった。

 「プラシーボ効果」という言葉をご存じだろうか。これは、薬そのものに効果はなくとも、飲めば治るという“思い込み”が精神的にプラスに作用し、実際に症状が改善する効果のこと。このプラシーボ効果の働きをうまく利用するのも中央銀行の腕の見せどころだ。

 日本銀行の緩和姿勢について、高田創・みずほ総合研究所チーフエコノミストの批判は興味深い。いわく、「患者に対し、現代の医学では治療は困難だと、医学上の難しさについてとうとうと説明しているようなもの」。そこにプラシーボ効果が働く余地はない。

 数多ある日銀への批判は、詰まるところこうした日銀のコミュニケーション手法に対するものに集約される。もちろん医師は何もやってこなかったわけではなく、「むしろ世界初のデフレという難病に対し、誠実にさまざまな処方を試してきた」(高田氏)。それでも患者は、「先生、あなたは専門家でしょ。何とかしてくださいよ」と迫るだろう。

 このように中央銀行が緩和を迫られているのは、なにも日本に限らない。米国でも先の大統領選で金融政策が争点となるなど、世界でも同様の事態が起きている。その背景には、多くの先進国で財政が悪化し、財政政策による景気刺激策が打ちづらい事情がある。

 金融緩和という“薬”だけで経済が本当に立ち直るなら意味がある。だが日本の病状は、そんな悠長なものではない──。「薬だけでは治りません、痛みを伴う構造改革が必要です」とはっきり伝えるべきだというのが、「白川方明総裁が任期5年間で伝えたかったメッセージ」(日銀幹部)だろう。

総選挙後には、簡単でシンプルな解決策を求める声がさらに高まり、戸惑いを隠せない。(C)moodboard/amanaimages

この続きは有料会員登録をすると
読むことができます。
cakes・note会員の方はここからログイン

1週間無料のお試し購読する

cakesは定額読み放題のコンテンツ配信サイトです。簡単なお手続きで、サイト内のすべての記事を読むことができます。cakesには他にも以下のような記事があります。

人気の連載

おすすめ記事

週刊ダイヤモンド

この連載について

初回を読む
日銀陥落【2】~募る不信 揺らぐ独立性

週刊ダイヤモンド

中央銀行が政府の言いなりになると困りものだ。だからこそ、世界の主要中央銀行には“独立性”なるものが与えられている。だが、安倍政権が日銀にその必要性を感じないのには訳がある。 本誌・新井美江子、池田光史、中村正毅、前田 剛 ※この連載は...もっと読む

この連載の人気記事

関連記事

関連キーワード

コメント

Tweetがありません