草食男子の名付け親」「紋切型」の背負い方

「草食男子」「肉食女子」という言葉を生み出したコラムニスト・深澤真紀さんと、昨年ドゥマゴ文学賞を受賞し、cakesでは「ワダアキ考」でお馴染みのライター・武田砂鉄さんの対談がスタート! 元編集者であり、現在はさまざまな媒体で活躍するお二人が、現代における「ものを発信する」ことを考え尽くします。
第1回は、なぜ「『草食系男子』の名付け親」と言い続けるのか?というお話から。プロフィール欄に何を書いたらプラスになる?

誤解され続ける「草食男子」

深澤真紀(以下、深澤) 武田さんのことはネットでコラムを書いている頃から、面白い人がいるなと思っていたんですが、このまえケイクスで対談したのが岡田育さんで、次が武田砂鉄さん。二人とも自分から対談したいとお願いしたんだけど、自分も二人も書籍編集者だったという共通点があって私には“元編集者萌え”があるんだなと思ったんです。

武田砂鉄(以下、武田) 随分とピンポイントな“萌え”ですね。自分を重ね合わせているんでしょうか。

深澤 たしかに歪んだ自己愛なのかもしれない(笑)。
 そして岡田さんもだけど、武田さんもフェミニズムやジェンダーの問題によく言及しますよね。私のように「クソフェミニスト」とまでは自称してはいないけど(笑)。

武田 特に意識しているわけではないですが、そういう指摘を受けることは多いですね。旧態依然とした「男とはこうあるべき」にいつまでもビチョビチョ浸って慰め合っているオジ様たちが押し並べて嫌いなので、そう思われるのかもしれません。

深澤 今回は、編集者目線からジェンダー目線まで持っている私たちで、今の時代に「ものを発信する」ってなんだろうってことを、ジェンダーの問題にも触れながら話し合いたいと思っているんです。
 私が2006年に「草食男子」という言葉を作った時から10年たって、世の中の状況も変わったので、世代の離れた若手と論じ合うのが面白いかなと。

武田 今回、深澤さんの著作をまとめて拝読させていただきましたが、著書略歴に「『草食男子』を命名」「『草食男子』を名付けて」などと書いてますよね。

深澤 書いてますね、意識的に。

武田 なぜ、書き続けるのだろう、と思いました。こういった流行語って、どうしても、ものすごいスピードで消費されて古びますよね。元・編集者的には、「そろそろプロフィールから外しませんか」と提案したくなってしまいます。つまり、自分まで同じように消費されてしまう、というリスクを考えたりしませんでしたか?

深澤 これまでの10年、何度も悩んできましたね。でもこれは“敗戦処理”みたいなものだから、とにかくやると決めてるんです。

武田 “敗戦処理”というと?

深澤 いろいろなところで書いたり話しているので「またか」と思う読者もいると思うのですが、「知らなかった」という読者も多いのでお話しますが、そもそも「草食男子」というのは、新しい価値観を持った男性たちへの「褒め言葉」として作った言葉なのに、「いまどきの男を否定する言葉」として広まってしまった。
 誤解されたままなのは当事者にも申し訳ないし、自分も嫌なんですよ。私が死んだら、「『草食男子』の名付け親が死んだ」と書かれるでしょうし。

武田 間違いなく死亡欄の見出しに、太字で「『草食男子』の名付け親」と書かれるでしょうね。

深澤 作品なり言葉なりを当てて、その影響力が大きくなりすぎた時にそれに触れなくなってしまう人もいる。その気持ちはわかるけど、だいぶ後になってから「その作品や言葉のイメージだけで捉えられたくなかった」という、まさに“紋切り型”な言い訳をしてしまう。私の場合は言葉を作ってから10年もたっていますがそれでも誤解をといて回ることで、この言葉に責任をとるしかないなと思っています。

武田 言葉って、本来の意図や目的とは逸れたところ、或いは逆方向でもずんずん広がっていきますよね。昨年、『紋切型社会』という本を出したときもそうでした。紋切型の言葉が溢れることで、考え方や社会が凝り固まっていくことを指摘したつもりが、例えが古いんですが『マジカル頭脳パワー!!』でいうところの「マル禁ワード」のように、この言葉を使ったらアウト、みたいなことを書いた本であるという受け取られ方もした。そうすると、予想通り「お前がこの本で書いたこの文章こそ紋切型だ」という跳ね返りもやってくる。

深澤 まさに紋切り型に使われてるんですね(笑)。そういう状況をどう思っていますか?

武田 優等生的な返事をしますと「使われ方として本望ではないけれど、それをきっかけにして本を知ってくれる人が増えれば有り難い話です」といった感じですね。わざわざ「そういう意味で書いたんじゃありません」と問うて回るのではなく、「ふむふむ、やっぱりそうきたか」と、イヤらしく監視カメラで俯瞰しています。放っておくほうがキーワードは拡張します。これも、元・編集者的感性なのかもしれませんね。

深澤 私の場合は同じ元・編集者でも、俯瞰しながら火消しもしている感覚なんです。武田さんの「紋切型」って言葉はもともと対象を揶揄するために使われているし、多少の誤用をされてもそんなにかけ離れた意味にはならない。でも「草食男子」の場合は、褒め言葉がけなすための言葉に変化していますから、さすがにまずい。

武田 誤った方向へ広まっていくのではなく、意味が丸ごと反転している、と。

深澤 そうなんです。以前ドラマの出演依頼を受けたことがあるんです。ヒロインが見ているテレビ番組の中で、コメンテーターとして「最近の草食男子は情けないですね、恋愛がうまくいかなくて犯罪を犯す人もいます」っていう台詞を言う、深澤真紀本人の役で(苦笑)。

武田 誤読を名付け親に押し付ける(笑)。

深澤 もちろんそれは話を動かす装置としての台詞で、脚本家に悪意があるわけじゃないってこともわかってますよ。でもドラマとはいえ本人役でそんな台詞を口にしたら私が今までやってきた火消しは無駄になるから、きちんと説明してお断りしました。そしてドラマを見たら、別の人が本人役で登場して、「草食男子は犯罪をすると思います」って言っていましたけどね。

武田 誰が本人役で登場したのか、なんとなく予想できます。実にわかりやすいストーリーですね。

深澤 こういうことが重なると、とにかく言葉が誤用されている現場に足を運んで火消しをするしかないって思うんです。自分の作った言葉が意図と外れたところで、ネガティブな意味で人をカテゴライズする言葉として育ってしまってるのだから。草食男子はそういう意味では流行語としては、少し特殊なものだったのかもしれません。

プロフィール欄に何を書くべきか

武田 『ヤンキー経済』の原田曜平さんが、続いて『さとり世代』『女子力男子』という著作を出されています。このように括る言葉を新たに提示して、あちこちに放って、「ん? こんな括りって最近まで無かったはず」という急造の“土地”を議論させる手法があちこちで増えてきましたね。こういう働きかけって「草食男子」以降に強まったとも思うんです。つまり深澤さんは、その手の「括り」を提言してみた先鋒だとも思われているのではないですか。

深澤 そうかもしれないですね。だからこそ火消しをするしかない。草食男子をめぐる誤解の一つである「深澤というモテないババアが、自分を相手にしない男への恨みで作った言葉」だと思われてるのも愉快じゃないけど(笑)、それよりもむしろこの言葉が生まれた時代背景のことを知ってほしいんです。
 団塊の世代とかバブルオヤジたちとは違う、古い価値観から解放された男性が出てきた時代で、それが草食男子だったと。この言葉をきちんと調べた人には、誤用された状況も含めて、名付け親の意図はせめて伝わってほしいというかすかな望みがあります。

武田 どこまでも埒が明かない作業になりそうですね。

深澤 おっしゃるとおり埒が明かないし、徒労感もありますよ。フェミニストの小倉千加子さんが20年くらい前に、女性誌『CREA』の対談で「フェミニズムをこの社会で説くことは、海に砂糖をまくようなもの」とおっしゃっていました。私の今の状況もそんな感じではありますが、武田さんはこんなことはもうやめたほうがいいと思いますか?

武田 そうですね。個人的には、プロフィールからは外した方がいいんじゃないかと思います。

深澤 それはなんのために?

武田 「きちんと調べた人には伝わってほしい」と仰っていましたが、「最後までたどり着ける率」って、どうしても低くなる一方ですね。その一方で「さわりだけ摂取していく率」はどんどん高まっている。プロフィールに「草食男子、ちなみにこれは男への恨みから作った言葉ではありません。むしろ……」と断り書きを入れるならば別ですが(笑)。

深澤 接触する人は増えていくけど、探求する人は少ないってことですね。

武田 さわりだけに触れる人は、その中にあるキーワードだけに反応します。話は微妙にずれますが、自分のプロフィールに、昔勤めていた出版社の名前を入れないのもそのキーワード反応が嫌だからなんです。安藤美冬さんの本を読むと、今、自分一人で、こんなことやってます、ってことが書かれていましたが、プロフィール欄には、集英社の広告営業と書籍の宣伝業務を積んで社長賞を受賞したこともある、と書かれている。無論、個人の自由ですが、相容れません。

深澤 それは安藤さんにとって、集英社をプロフィールに入れることがプラスになるんだから仕方ないでしょう。武田さんだって入れてもいいと思うし。

武田 その「プラスの自覚」がダダ漏れていることに対して、ノーガードであるように見えるのがイヤなのでしょう。

深澤 ただ私のプロフィールの「草食男子」は必ずしもプラスにはならない。むしろ、自罰として入れざるを得ないって感じなんです。

武田 深澤さんは、プロフィールにわざわざマイナス要素を注いでるということですか。

深澤 自分が言ってしまったんだから、プロフィールから外すのもおかしいかなと思っています。私は今は自分で書いたり話したりする仕事が多いけど、出身が編集者なので裏方の方が好きだし、面倒くさいから表に立ちたくないんですよ。
 ただ、「草食男子」にまつわるネガティブな現状を作ってしまったことに責任があるし、その火消しのためにも表に出続けなければいけないと勝手に思っていて。だから自分の前科を絶えず明らかにしておくんです(笑)。

武田 「2006年、覚せい剤で逮捕」みたいな感じですか(笑)。それは確かに、主観からくる作家的野心というより、これを消してはいけないという、客観からくる編集者的な気質なのでしょうね。

深澤 そうですね。自分のしたことの責任をとりたいというのは、作家的野心よりもよほどずうずうしい欲望だと思っています。


次回「本当に叩くべきは『ヒモザイル』ではない」、2/20(土)更新予定。

構成:小池みき


深澤真紀さんの新刊『女オンチ。−女なのに女の掟がわからない』、2/11(木)発売!

女オンチ。 女なのに女の掟がわからない (祥伝社黄金文庫)
女オンチ。 女なのに女の掟がわからない(670円+税/祥伝社黄金文庫)

「女オンチ」とは、著者本人が自分のために作った言葉。 「女らしさ」というものが分からず、美魔女信仰が甚だしい現代の世の女性たちとはズレた感覚の自分を楽しく綴っている。 新たに、社会学者の古市憲寿氏との「女オンチ×男オンチ」のスペシャル対談を掲載!「人間オンチ」な2人の軽妙なやり取りにも癒される!?

第25回Bunkamuraドゥマゴ文学賞受賞! 武田砂鉄さん初の著作『紋切型社会—言葉で固まる現代を解きほぐす』


紋切型社会—言葉で固まる現代を解きほぐす

この連載について

共感しない、させない戦い方

武田砂鉄 /深澤真紀

「草食男子」「肉食女子」という言葉を生み出したコラムニスト・深澤真紀さんと、昨年ドゥマゴ文学賞を受賞し、cakesでは「ワダアキ考」でお馴染みのライター・武田砂鉄さん。元編集者であり、現在はさまざまな媒体で活躍するお二人が、現代におけ...もっと読む

この連載の人気記事

関連記事

関連キーワード

コメント

FreeTIBET2008 でもこれは“敗戦処理”みたいなものだから、とにかくやると決めてるんです~「 草食男子の名付け親」「紋切型」の背負い方 https://t.co/j3EqLnGRfM https://t.co/lrdvaUUabt 1年以上前 replyretweetfavorite

T_akagi 団塊の世代とかバブルオヤジたちとは違う、古い価値観から解放された男性が出てきた時代で、それが草食男子だったと。この言葉をきちんと調べた人には、誤用された状況も含めて、名付け親の意図はせめて伝わってほしいというかすかな望みがあります。 https://t.co/F4cSgm8ikm 1年以上前 replyretweetfavorite

aisu_dog こういうことなのか…動物看護師としては 1年以上前 replyretweetfavorite

ueshinzz 褒め言葉としてつくられたなんて、まるで知りませんでした。火消しでも伝わりません。 1年以上前 replyretweetfavorite