​『ザ・ウォーク』 もっとも美しく無害なテロ行為

ロバート・ゼメキス監督の新作は、『ザ・ウォーク』です。目もくらむ高さをスクリーンで鮮やかに再現し、緊張感あふれる作品となっています。この美しくも恐ろしい映画を、ブロガーの伊藤聡さんはどのように見たのでしょうか。

『バック・トゥ・ザ・フューチャー』(’85)や『フォレスト・ガンプ/一期一会』(’94)で知られるロバート・ゼメキス監督の新作は、1974年に起こった実際のできごとを題材にした伝記映画である。主人公は、フランスの大道芸人フィリップ・プティ。作品は、彼がアメリカへ渡り、ワールドトレードセンターの北棟と南棟のあいだにワイヤーをかけて綱渡りをしたという事件の顛末を描いている。高さ411メートルのツインタワー屋上に張られたワイヤーの上を歩くという特殊な状況。これをフィリップ本人の視点で映像化するユニークなアイデアは、迫真のビジュアルもあいまって大成功したといえるだろう。

劇中で再現されたワールドトレードセンター屋上における描写は、高所恐怖症の観客であれば決してスクリーンを直視できないようなリアルさがある。映像の説得力で見る者を圧倒し、ねじふせる作品ではないか。主演は、『(500)日のサマー』(’09)などのジョセフ・ゴードン=レヴィット。

ツインタワーで綱渡りという行為がいかに信じがたいものであるか、何より迫真の映像が伝えている。カメラがビル屋上へたどり着いたとき、観客はその高さの表現に圧倒されるほかないのだ。下をのぞきこむ恐怖や、ときおり吹いてくる強風(バランスを崩せば転落するほかない!)。

そして、ツインタワーのてっぺんから見下ろすニューヨークの街並み。主人公が綱渡りの最初の一歩を踏みだすとき、観客は「これほどに細いワイヤーの上を歩けるのだろうか」と信じがたい気持ちにさせられる。見る者からこうした反応を引き出した時点で、本作は成功しているといえるだろう。

フランス人のフィリップ・プティが、自由の女神の上に立って観客に語りかけ始めるという意外なオープニングが示すように、『ザ・ウォーク』は、「大きな夢を叶えるためにアメリカへやってきた外国人」を描く作品である。自由の女神は移民にとってのシンボルだ。かつてアメリカを目指した移民たちは、まずニューヨークのエリス島で入国審査を受けた(エリス島のすぐそばには自由の女神がある)。『ゴッドファーザー PART II』(’74)で、アメリカへやってきたイタリア移民がいっせいに、エリス島へ向かう船から自由の女神を見上げた場面を想起してほしい。アメリカへ野心を抱いて乗り込む者はまず、自由の女神の祝福を受けるのだ*1

この続きは有料会員登録をすると
読むことができます。
cakes会員の方はここからログイン

1週間無料のお試し購読する

cakesは定額読み放題のコンテンツ配信サイトです。簡単なお手続きで、サイト内のすべての記事を読むことができます。cakesには他にも以下のような記事があります。

人気の連載

おすすめ記事

ケイクス

この連載について

初回を読む
およそ120分の祝祭 最新映画レビュー

伊藤聡

誰しもが名前は知っているようなメジャーな映画について、その意外な一面や思わぬ楽しみ方を綴る「およそ120分の祝祭」。ポップコーンへ手をのばしながらスクリーンに目をこらす――そんな幸福な気分で味わってほしい、ブロガーの伊藤聡さんによる連...もっと読む

この連載の人気記事

関連記事

関連キーワード

コメント

consaba 映画評・伊藤聡「ワイヤーの上に立ち、ツインタワーのあいだを優雅に歩いてみせるくだりには、ワールドトレードセンターを舞台にした、もっとも美しく無害なテロ行為として、新しい意味が付与されてもいる。」『ザ・ウォーク』 https://t.co/in5Dlx1e0A #eiga 約4年前 replyretweetfavorite

yuna_ume 「常軌を逸した目標こそがアメリカン・ドリームであり、自由の女神の祝福にふさわしい」 約4年前 replyretweetfavorite

campintheair 『ザ・ウォーク』。写真は74年に撮影された現場写真ですが、この人物の視点から見た世界が再現されているのが実に怖く、スリリングな作品です。私の評もぜひお読みくださいませ。 https://t.co/VdXamzGxos https://t.co/JoG6qvdTro 約4年前 replyretweetfavorite

koruriru  ジョゼフ・ゴードン=レヴィットは見たいが。中身にあまり興味が持てないのが問題だw 約4年前 replyretweetfavorite