一故人

​デヴィッド・ボウイ—変貌し続けた「趣味の豊かな泥棒」

ロックスターとして大活躍し、俳優としても知られるデヴィッド・ボウイ。彼の多面的な顔について、今回の「一故人」は紹介します。輝き続けたスターの軌跡を改めてご確認ください。

歌舞伎に倣ったコンサートでの衣裳替え

1972年、イギリスのロックミュージシャン、デヴィッド・ボウイ(2016年1月10日没、69歳)は「ジギー・スターダスト」という架空のキャラクターに扮して人々の前に現れた。この年6月にその名も『ジギー・スターダスト』というアルバムをリリースし、そのコンセプトに合わせた演出でコンサートをあいついで行なう。

派手なメイク、きらびやかな衣裳に、髪をギザギザにカットしてオレンジに染めたジギー・スターダストの出で立ちは、驚きをもって受け入れられた。とりわけ目立つ髪型のヒントとなったのは、前年の1971年にファッション誌『ヴォーグ』に載った赤毛のモデルの写真だという。その写真と同じページには、新進気鋭のデザイナーだった山本寛斎による歌舞伎調の衣裳、黒いビニールのコートをそれぞれ着たモデルたちの写真が並んでいた。奇しくも山本はそれからまもなくしてボウイの衣裳を手がけるようになる。

山本とボウイを結びつけたのは、スタイリストの高橋靖子だ。高橋は1972年に写真家の鋤田正義とともに、ボウイに人気で先行したマーク・ボラン率いるT.レックスの撮影のため訪英していた。鋤田によれば、ボウイのことはこのとき街角で彼のレコードのポスターをたまたま見て知ったという。実際に彼の出演するコンサートを観て感動した鋤田はさっそく撮影を申し出る。このとき高橋はボウイをスタイリングする役割を担った。彼女はその前年、山本寛斎のロンドンでのファッションショーをプロデュースしていたことから、ボウイに山本の作品を着せることを思い立つ。ボウイもこの提案に乗った。

高橋と山本はその後もボウイに衣裳を提供し、鋤田も長きにわたり彼を撮り続ける。3人の日本人は、ボウイのイメージづくりに大きく貢献した。1973年にボウイがアメリカに進出し、初のライブをニューヨークのラジオ・シティ・ミュージック・ホールで行なったときには、歌舞伎の衣裳の早替えに倣い、ボウイのまとった山本の例の黒いビニールのコートを、黒子姿の高橋とヘアメイクの女性が引き抜くという演出がなされた。これはもともと前出の山本のショーで試みられたものだ。なお、この年、アメリカに続き日本にも初めて訪れたボウイは、自らの希望で実際に歌舞伎を観劇している。

アメリカ進出は大成功で、ボウイの名は世界中に知れ渡るようになる。彼の実質上のデビューは20歳前の1966年、初のヒット曲は69年の「スペース・オディティ」だが、本格的なブレイクはやはりジギー・スターダストとして人気を集めてからだった。そこにいたるまでには、5年ほど紆余曲折を経験したことになる。ここであらためてその遍歴を振り返っておこう。

演技するロックミュージシャン

デヴィッド・ボウイ、本名デヴィッド・ロバート・ジョーンズは1947年にロンドンで生まれた。12歳のときに初めての楽器であるサックスのレッスンを受け、10代後半にはバンドをつくっては解散を繰り返す。この間、ハイスクールを中退して広告代理店に就職したものの、「資本主義に傾いた」との理由から半年でやめている。1965年に当時の人気グループ、モンキーズのデイヴィ・ジョーンズと混同されるのを避けて、両刃のボウイナイフに由来する「デヴィッド・ボウイ」と改名。翌66年にソロとしてレコードデビューし、67年には最初のアルバム『デヴィッド・ボウイ』をリリースした。

青年時代のボウイの遍歴のなかでもとくにユニークなのは、前衛舞踊家でパントマイム・アーティストのリンゼイ・ケンプに師事したことだ。20歳のころ、ケンプから自分の舞台のバックに音楽をつけてほしいと頼まれたのがきっかけらしい。ケンプのダンスカンパニーに出入りし、巡業にも同行しながら、音楽と劇がどんなふうに結びつくか勉強させてもらった、とのちにボウイは語っている。このほか、カンパニー座付のピアニストからは、ジョン・ケージやシュトックハウゼンの前衛音楽、電子音楽などについて教えられた。ダダやシュールレアリスムなどヨーロッパの前衛芸術の歴史について独学したのもこの時期だ(ジェリー・ホプキンス『デヴィッド・ボウイー』)。

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一故人

近藤正高

ライターの近藤正高さんが、鬼籍に入られた方を取り上げ、その業績、人柄、そして知られざるエピソードなどを綴る連載です。故人の足跡を知る一助として、じっくりお読みいただければ幸いです。

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コメント

hobomantohihi すごく良い記事 https://t.co/642TAhOAXt 約3年前 replyretweetfavorite

gamabin デヴィッド・ボウイ――変貌し続けた「趣味の豊かな泥棒」|近藤正高 @donkou https://t.co/2F6KFaMtj9 3年以上前 replyretweetfavorite

kiq “近藤正高” 3年以上前 replyretweetfavorite

ora109pon デヴィッド・ボウイ――変貌し続けた「趣味の豊かな泥棒」 | 3年以上前 replyretweetfavorite