一月某日、映像監督のSさんから新年会のお誘いメールが届いた。
「新年会の前に、赤坂の豊川稲荷で厄祓いの祈祷を受けます。よかったらお祓いから参加しませんか」
はじめてのお祓い。これはもしや〈現実入門〉になるのでは? さっそく、連載の担当編集者N氏にメールを打つ。
「お祓いに誘われました! 初詣の次のテーマがお祓いって、偏りすぎですかね……?(ちなみに祈祷料で五千円かかるそうです)」
「お祓いですか……。うーん、そろそろ街に出たい気もしますが、文月さんの臆病さは『神がかり』レベルですから、かえっておもしろいかもしれないですね」
神がかりレベル……。
「お祓いで心を鎮めてから、合コンとかスポーツ観戦とか、いろいろ挑戦していきましょう!」
いったい、どこの誰が「合コン」の前に「お祓い」に行くというのだ。うう、わたしのごせんえん……と気が遠くなる。仕方ない、これで街へ出られるならば、と心を決める。
真摯な思いでお祓いに臨む私だったが、このときは知る由もなかった。とんでもない地獄の〈初体験〉に目を回すハメになるなんて——。
笑ってはいけないお祓い大合奏
迎えた当日、天気はあいにくの曇りだった。赤坂見附駅から徒歩五分。豊川稲荷東京別院の鳥居の前に、今日の顔触れがそろっていた。今年四十二歳で後厄となる幹事のSさん、スタイリストのTさんとその恋人など、総勢五人。みんなでお祓いを受けるのだ。
御祈祷受付の前で、水色の申込用紙を記入する。「以下の中から、3つを○で囲んでください」。
家内安全・商売繁昌・交通安全・心願成就・良縁祈願・病気平癒・学業増進・安産祈願・厄難消除・合格祈願・身心堅固・開運満足・芸道精進・息災延命……etc。
目がチカチカしてくる。人の願望は、こんなにも多種多様なのか。果たして私は何をお願いしたいのだっけ、とグルグル考え込む。
「心願成就って?」
「何でもお願いできるオールマイティなやつだよね」
うーん、安易だ。安易すぎる。これを選んだら負けな気がする……。
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