笑いのカイブツ

ラジオの砂嵐は、僕、そのものだった。

吉本の劇場を辞めたあと、ツチヤタカユキさんはハガキ職人になることに決めました。そこから、雑誌とラジオにネタを投下し続ける狂投稿時代が幕を開けるのでした。
他を圧倒する量と質、そして「人間関係不得意」で知られる伝説のハガキ職人・ツチヤタカユキさん。その孤独にして熱狂的な笑いへの道ゆきが、いま紐解かれます。

2010年、吉本の劇場を辞めた頃に、話は戻る。

僕はお笑いの世界を蹴りだされ、ハガキ職人になることを決意した。


「オカン、オレ、よしもとやめてきたでー」

家の中から出て来た母が、僕の姿を見て、唖然とする。

「アンタ、どないしたんその頭?」

「坊主にしてん」

新しい1日は、引き算から始まった。

要らないものはすべて削ぎ落とし、笑いに必要なものしか残さない。
ハガキ職人に、髪の毛は必要か? これは要らない。

髪の毛を洗う時間や、乾かす時間があれば、その間にボケを、50個は生産することができる。

髪の毛がある僕と、髪の毛が無い僕とでは、毎日50個分のボケ数の差が生まれる。 一週間で350個。一年にしたら、とんでもない差が開く。


吉本の劇場を後にした僕は、そのまま千円カットにやって来た。

案内された席に着くと、美容師がやってきて、どんな髪型にするか聞かれた。
「坊主にして下さい」と僕は答えた。

鏡に写る不気味な男は、ずっとこちらをにらみつけている。
その男の無造作に伸びた髪は、バリカンで刈り取られ、髪がなくなると、不気味な顔が先ほどよりも際立った。
そいつは相変わらず、こっちを睨み付けている。 変わり果てた自分の姿を見て、地下室で爆弾を作ってそうな男だなと思った。
自分のことをちゃんと鏡で見るのは、久しぶりのことだった。

僕の頭の中にある、自分のイメージの姿。
それは、ブラックジャックの顔面にある灰色の皮膚。
全身があれの集合体のような、つぎはぎだらけの醜いカイブツ。それが鏡に映ると思っていた。

現実世界にいるらしい僕の姿は、自分でイメージしていた僕の本当の姿とは、違っていた。

「よかったわ」

「何がよかってん?」

「アンタ、寝てへんかったし、あのままやったら体壊してたで?」

「せやな」

「ずっと変な咳してたし」

「うん」

「こうなって、よかったんちゃう?」

「せやな」

うちは母子家庭だ。父親には会った事がない。

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笑いのカイブツ

ツチヤ タカユキ
文藝春秋
2017-02-16

この連載について

初回を読む
笑いのカイブツ

ツチヤタカユキ

他を圧倒する量と質、そして「人間関係不得意」で知られる伝説のハガキ職人・ツチヤタカユキさん、二七歳、童貞、無職。その孤独にして熱狂的な笑いへの道ゆきが、いま紐解かれます。人間であることをはみ出してしまった「カイブツ」はどこへ行くのでし...もっと読む

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コメント

SCRisImmortal   明鏡国語辞典とジーニアス英和辞典貰いまくってたなぁ・・・懐かしい・・・ 3年弱前 replyretweetfavorite

87hana99 https://t.co/BhJQLcV9So ツチヤタカユキさんの連載、以前のブログにない新しいページに進んだ。 母子家庭で父親を知らない、そう言えば若林さんが言ってたなぁ #kwann 3年弱前 replyretweetfavorite

tu_ba_k ついに。 3年弱前 replyretweetfavorite