宇宙のゴミをどうやって捕まえよう!?
宇宙機関ですら実現していない宇宙ゴミの捕獲。専門家でもない自分にできるのかという不安を忘れるには、とにかく研究に没頭することが一番だ。
飛行機は時速900km、宇宙ゴミは時速27,000kmで飛んでいる。飛行機の30倍の速さだ。
人類は過去に一度、うまく軌道に乗れなかった人工衛星(ゴミではない)を捕まえて修理し、正しい軌道に乗せ換えたことがある。 スペースシャトルを使って、インテルサットという衛星を捕まえた。
その時の様子はこんな感じだ↓
スペースシャトル1機宇宙飛行士(船外活動)3人
捕まえた衛星よりはるかに大きい宇宙船と3名分の貴重な命が必要だった。
沢山あるゴミを除去するのに、毎度こんなことをやっていては、いくらお金があっても足りないのだが、よく考えると、毎日の人々の生活では、大きい物で小さいものを捕まえている。
ハエを捕まえるのはハエたたき。虫を捕まえるのは虫取り網。
宇宙では実際どうやっているだろう。
例えば国際宇宙ステーション(ISS)に補給船が合体して人や荷物を送り込むのだが、そのときの「捕まえ方」はロボットアームだ。
©JAXA
これもやっぱり、大きな大きなISSが小さな補給船(といっても大きいのだけど)を、非常に高価で重いロボットアームで捕まえている。
宇宙にはランデブーという技術がある。2つの物体が合体する。これは、お互いに正確な位置情報を持っていてお互いに共有していることと、お互いに姿勢を細かくコントロールしているからこそ可能な技術だ。
ISSと補給船はランデブー技術を使っている。
宇宙ゴミはただのゴミなので、正確な位置情報を計測もできなければ地上に送ることもできない。地球の重力、地磁気、太陽光のせいでゴミは回転をしており、簡単には捕まえられない。
大きい物が小さいものを捕まえるのでなく、「小よく大を制す」ような、 感じにしたい——。
僕は外出した。きっとヒントは地上にある。
まず目をつけたのはUFOキャッチャーだ。お金を投じてしばらく没頭していた。
「止まっている」物体を「目の前」で操作して捕まえられなかったら、高度800km付近の回転しているものを地上から操作して捕まえられるはずがない。
人は肩から手首にかけて7軸で動いている。ISSのロボットアームは6軸で動かしているすごい機械だ。そんな大きい物を作っても開発コストも打ち上げコストもかかるし、まして、宇宙掃除の費用対効果が悪すぎる。
加えて、宇宙には足場がない。ロボットアームは動かすだけで、重心の位置が変わり、ロボットアーム自体が回転してしまう。
ロボットアーム案は、複雑な上に、とても重量が重いので僕は諦めた。
次に考えたのは、投網だ。一網打尽!もしそれができたらどんなにすごいだろう。漁師が動く魚を採るための投網。古くから使われている猟法だ。それを真似できないだろうか。
実は、欧州宇宙機関(ESA)はネットで宇宙ゴミを捕まえることを研究している。
デブリ除去衛星が、宇宙ゴミのそばまでいって、やや離れたところから、網をかける。網の角隅にはおもりがあって、宇宙ゴミに巻き付くというものだ。
これなら、回転している宇宙ゴミでも捕まえられるかもしれない。
©ESA
僕は、ネット方法を考えている研究者たちに話を聞いてみた。研究者たちは有力な案だと望みを持ちつつもいくつかの課題に直面していた。
主な課題は2つで、1つ目は本格的なシミュレーションがものすごく難しいこと、2つ目はネットで捕まえたあと牽引しようとすると揺れてしまうことだった。
ネットによる捕獲が悪いわけじゃない。どの方法も長所短所があってそれぞれの課題を克服しなければいけない。だけどこれだけ天才を集めたチームが悩んでいるのだから、僕が新参で太刀打ちでるわけがないと思った。
もっと違う方法を考えなきゃ——。
僕が最後に行き着いたのは「粘着剤」だった。それは、ハエ取り紙とゴキブリホイホイから得た着想だった。
・恐ろしく軽い
・モーターやギアなどの機構がいらない
軽いと衛星のサイズも小さくて済むし、打上げコストも安い。
駆動系の機構がなければ故障率もぐんと減る。
問題は、宇宙環境で使える粘着剤、ものすごく強力な粘着剤があるかどうかだった。温度変化や放射線などに耐えられて、ものすごく強力なもの。
僕は粘着剤を探しに回り始めた。粘着剤とは、わずかな圧力を加えるだけで接着するものだ。
切手のように裏面を湿らせる必要もない。
アイロンプリントのように熱を加える必要もない。
見込みはゼロじゃなかった。NASAが使った材料一覧を調べたら、粘着剤が一部使われていたからだ。まったく別の用途だったけれども。
ウェブで検索して、アポイントを入れることから始めた。
企業や大学をぐるぐると回った。化学の世界の人と会って話すには、また新たな論文や参考書を読む必要があった。
機械工学や電気工学、宇宙物理の論文や本ばかり読んでいたので、また基本的な知識を理解するところからスタートしなきゃいけなかった。
あるときは、工業地帯の大きな工場の門前に立っていた。
あるときは、人の紹介の連鎖で、東京→千葉→福井→大阪→アメリカ→福岡→名古屋→と移動した。
電話やSkypeで打ち合わせすればいいじゃないかって思うかもしれないけど、「電話で教えていただけないでしょうか」は決して教えてくれない。
「行きますので30分だけ教えて下さい」と言って約束を取り付けていた。30分頂いたら2時間話して頂ける。おかげで、随分と知識がたまった。
収穫が2つあった。
・理想のものはないこと
・理想に近づけるような材料がありそうなこと
何度も何度も粘着剤を作って、実験をしなければならなかった。そのためには、僕たちが欲しい粘着剤を作るために、材料選定、製造工程、成形の形、などを、素早くいろんなパターンを一緒に開発 してくれる企業が必要だった。
まず、大手企業をたくさん回った。非常に親身になってくれるところもあった。でも、結局は「何トンいるの?」「どれくらい売れるの」と聞かれた。
仕方なかった。大手の化学プラントは大きなタンクを使っている。わずかな量の研究開発のために貴重な人やタンクを使えない。
最後にたどりついたのは中小企業だった。都会からはずいぶんと離れた場所にある。
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