プリティ・ガールズ

最終回】連続殺人犯との面会

クレアとリディアの姉、ジュリアの失踪に家族はみな傷ついていた。感情を抑えられなくなった父は連続殺人犯の収容された刑務所へ面会に訪れる。殺人犯がジュリアの失踪事件に関する情報を握っているというけれど……?
『プリティ・ガールズ 下巻』に続くcakes連載の最終回! 二村ヒトシさんの解説とあわせてお楽しみください。


プリティ・ガールズ 上(ハーパーBOOKS)

iv

 ティモシー・マッコーコデールの死刑が執行されたときに、おまえが書いた学校新聞の記事のことは覚えているかい? 彼は一九七〇年代にアトランタのミッドタウンのバーで、 黒人に話しかけた白人の少女を殺した罪で死刑を言い渡された。

 白人の少女が黒人に話しかけることがなぜそれほど怒りをかき立てるのか、おまえは理解できずにいた。この無知蒙昧なレイシズムが理解できないというおまえを、わたしは誇りに思うと同時に希望を持った。

 母さんとわたしは一八七六年から一九六四年まで存在した南部の黒人差別法であるジム・クロウ法が撤廃される直前に育った。平等の権利を訴えてデモをしたが、友人たちと一緒に歩くのは簡単なことだった。

 おまえの記事について母さんと話しあったことを覚えている。マッコーコデールは処罰しなければならないが、社会が死に至らしめるのはまちがっているとおまえは社説に書いていた。われわれが信じていたものをおまえも信じていたと知って、とても誇らしい気分だった。われわれも十七歳の少女を誘拐し、レイプし、拷問したうえ殺した男であっても、 電気椅子で処刑することに怒りを感じていた。

 今朝わたしはおまえの記事について考えながら、ジョージア州立医療刑務所に向かって車を走らせていた。ここがジョージア州で死刑囚が収容されている刑務所だと、おまえならわかるだろう。正門を通り抜けたとき、なぜおまえの記事が頭に浮かんだのだろうと考えていた。

 いまでもおまえを誇りに思っているが、死刑については当然意見を変えた。ひとつ保留しているのは、両親にスイッチを押す権利を与えるかどうかということだ。

 おまえがいなくなってから、ベン・カーヴァーという郵便局員が七人の若い男性を殺した罪で死刑を宣告された(彼は同性愛者だったから、ハックルベリーによれば若い女性を殺すことに興味はなかったはずだ)。噂ではカーヴァーは被害者の肉を食べていたということだったが、公判は開かれなかったので、猟奇的なあれこれは公にならなかった。カーヴァーの名前は十カ月ほど前、おまえがいなくなってから五年目に当たる日に保安官のファイルで見つけた。手紙はジョージア州矯正局の便箋に刑務所長によって書かれていた。 死刑囚のベン・カーヴァーが、看守のひとりにおまえの失踪に関係する情報を持っているかもしれないと言ったというのだ。

 ハックルベリーはこれを確認するというメモを残していたが、カーヴァーによれば保安官が来たことは一度もないということだった。もちろんわたしはベン・カーヴァーに会いに行った。実を言うとこの十カ月で四十八回訪問している。もっと訪ねたかったが、死刑囚は週に一度の面会しか認められていないのだ。

 スイートハート、いままでずっと黙っていて申し訳ない。だが読みつづけてほしい、きっとわかってくれるはずだ。

 面会の日、ベン・カーヴァーとわたしは金網に隔てられた水槽のなかの魚のように向かい合わせにすわる。金網には小さな穴がたくさんある。面会室は騒がしい。

 死刑囚はおよそ八十人いるが、大半の男たちにとって外の世界とのつながりは母親だけだ。多くの感情が錯綜しているのはおまえにも想像がつくだろう。ベン・カーヴァーの母親は歳をとりすぎて面会に来られないため、彼に会いに行くのはわたしだけだ。腰をかがめて金網に唇を近づけなければならない。何千もの唇が押しつけられてきた結果、黒い汚れがこびりついていてもだ。

 それでもかまわずわたしは金網に唇を押しつけた。

 ベンは軽い南部なまりのある魅力的な男だ。礼儀正しく、気遣いができる。わたしは不思議に思った。これが彼の生来の気質なのか、それともハンニバル・レクターの小説を読みすぎたのだろうか。

 それはともかく、彼はいつもわたしの体調を気遣ってくれる。「今日は疲れて見えるな」 だとか、「ちゃんと食べてるのか」だとか、「床屋に髪型の相談をしたほうがいいぜ」などと言って。

 わたしに愛想よくするのは、彼が孤独だからだとわかっている。

 わたしがそれに同調するのも、彼が知っていることを知りたいからだというのと同じように。

 というわけでわたしたちはおまえに関すること以外のことを話す。

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2015-12-02

この連載について

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プリティ・ガールズ

カリン・スローター

成功した夫と美貌に恵まれ、なに不自由ない生活を送っていたクレア。だが、ある日暴漢に夫を殺されたことから、彼女の人生は暗転する。葬儀中、自宅に強盗に入られたクレアは、刑事に加えFBI捜査官が事情聴取に現れたことを不審に思い、夫のパソコン...もっと読む

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コメント

Harperbooksjp ついにcakesさんの連載も最終回!!上巻まるっと読めちゃいます。だけでもかなりの立ち読みボリューム。大丈夫かうちの会社!?  約4年前 replyretweetfavorite