昨年、ポールはダースベイダーやアメコミのヒーロー、グリーンランタンの扮装をした酔っぱらいたちが道路をふさいでいる写真を送ってくれた。 リディアはもう一冊のファイルを滑らせた。また若いブロンド美人だ。「パム・クレイトン。『パッチ』に載ってた。ストーン・マウンテン公園の近くでジョギングしていたところを森のなかに連れこまれた。七時を過ぎてたけど、八月だったからあたりはまだ明るかった」
ポールのテニスチームはときどきその公園で試合をする。 「ファイルに書かれた日付を見て。ポールは彼女たちがレイプされた日に合わせて探偵を雇っていたのよ」
クレアはその言葉をそのまま受けとった。それ以上読みたくなかった。「犯人は彼女たちになにか言ったの?」
「言ったとしても、記事には書かれていないわ。警察の調書を見ないと」
なぜポールが私立探偵に頼んで調書を入手しなかったのかクレアは疑問に思った。リディアのファイルには逮捕記録とそれに付随する書類が含まれていた。ポールはすべて異なる探偵にレイプされた女性たちを調べさせている。自分の関与が知られるのはまずいと思ったのだろうか。それともすでに彼女たちになにが起きたか知っているので、調書は必要ないと思ったのだろうか。
あるいはジェイコブ・メイヒューから記録を入手していたのだろうか。
「クレア?」
クレアは首を振ったが、いったんその考えを思いついてしまうと、忘れることはできなかった。なぜ動画を確認しているメイヒューの表情を観察しておかなかったのだろう。しかしまた、それがなんの役に立つというのだろうか。ポールの二面性に気づかなかった自分の判断力があてにできるとは思えない。
「クレア?」リディアはクレアの反応を待った。「なにか気づいたことがある?」
クレアは再び首を振った。
「みんなあんたに似てる」とリディア。
ということはリディアにも似ている。しかしそのことは指摘しなかった。「それで、どうする? わたしたちはこの女性たちの人生を手に握っている。メイヒューを信頼できるかどうかわからない。たとえできたとしても、彼は動画のことを真剣に捉えなかった。このファイルについて捜査すると思う?」
リディアは肩をすくめた。「ノーランに電話しましょう」
その言葉が信じられなかった。「このファイルをあの男の前に投げだすの? 彼女たちが犠牲になればいいって言ってるの?」
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