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クレアは自室の椅子にすわって、姉がポールのファイルを調べるのを眺めていた。リディアはさらにショッキングな事実が出てくるのではないかと意気ごんでいるようだが、クレアは次々と出てくる新たな事実に押しつぶされそうになっていた。
ほんの二日前、夫の棺が地面に下ろされていくのを見ながら、自分も一緒に埋葬されればいいのにと考えていたはずだったのに。肌が干からびている感じがした。ひどい寒気がし、瞬きをするのもひと苦労だった。そのまま目を閉じていたいという誘惑に抗えそうになかった。
手のなかのプリペイド携帯を見つめた。午前零時三十一分、アダムはクレアのメールに対し、“オーケー”という短い返信を返してきた。
なにがオーケーなのかわからなかった。USBメモリがポストで待っている。アダムは中身を見るまで判断を保留しようとしているのだろうか。
サイドテーブルに電話を置いた。答えの出ない疑問にうんざりし、夫の死を嘆くのではなく、そもそも彼を愛した自分の正気を疑わざるをえなくなって腹立たしかった。
リディアにはそのような留保はなかった。床にすわってプラスチックの箱を探っている。 子どものころハロウィンの夜にしていたのと同じ顔だ。
色のついたファイルをアルファベット順に床の上に積み重ねていた。色は年代によって分けられていた。この六年でポールは十八人の女性を尾行させている。
もっと多いのかもしれない。
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