プリティ・ガールズ

あの娘が悪いのよ

FBIが去った後、クレアは姉のリディアに自分が保護観察中になった理由を話し始めた。


プリティ・ガールズ 上(ハーパーBOOKS)

8

 リディアは一時間後に帰るとリックにメールを入れた。クレアが風呂に入り食事をしたのを見届け、ヘレンに電話をさせてここに来てもらう手はずをとるのを見守ってから。母親代わりなら二十四年前に一度やっている。もう一度やるつもりはなかった。

 FBIがからんでいるとすればなおさらだ。

 フレッド・ノーランのことを考えただけで、恐怖に胸が締めつけられた。あの男はクレアも知らないポールのことを知っている。それともクレアは知っていながら、女優顔負けの演技をしているのかもしれない。それはともかく、ポールに襲われたという話をついに信じたというのはほんとうなのだろうか。もしそうなら、なにがあの子の心を変えたのだろう? もし噓なら、なにを企んでいる? 考えてもわかりっこない。クレアが子どものころ見せていたずる賢さは、大人になったいま完璧になっている。鼻先に近づいてくる電車の前に立ちながら、なにも問題ないと言いつづけているのだ。

 リディアはぼんやりとキッチンを見まわした。クレアになにかつくってあげるのは簡単だと思っていたが、この家のどこもがそうであるように、キッチンはピカピカすぎて実用性に欠けていた。器具類はすべて光り輝く白いラミネートの扉の向こうに隠されている。 安っぽく見えるのに、その実とんでもなくお金がかかっているのだろう。レンジ台も磨きこまれたクオーツのカウンターと一体化しているように見える。ここは半分がショールームのキッチン、もう半分は宇宙船のようなものだ。実際にこんな場所で生活しようと思う人がいるとは信じられなかった。

 とはいえクレアが生活している痕跡はあまりない。冷蔵庫には未開封のワインボトルが詰めこまれているものの、食べものは賞味期限が二日前に切れた卵が半パックだけ。幸い、 パントリーで新しいパンが一斤見つかった。コーヒーマシンもあったが、そうだとわかっ たのは“コーヒーマシン”というラベルが貼られていたからだ。そのあとに設置日と思わ れる数字が書かれている。

 マシンの横にあるラミネート加工された説明書は、ポールの手書きによるものにちがいない。クレアがこんなくだらないことをするはずがないからだ。あちこちボタンを押したすえ、マシンがうなりをあげて動きはじめた。吹き出し口の下にエスプレッソカップを置いて、いっぱいになるのを見守った。

「使い方がわかったのね」クレアが言った。ライトブルーのボタンダウンのシャツに色あせたジーンズをはき、髪をうしろに流して乾かしている。ようやく自分の妹に見える女が現れた。

 リディアはカップを手渡した。「これを飲みなさい。酔いがさめるわ」

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カリン スローター
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2015-12-02

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カリン・スローター

成功した夫と美貌に恵まれ、なに不自由ない生活を送っていたクレア。だが、ある日暴漢に夫を殺されたことから、彼女の人生は暗転する。葬儀中、自宅に強盗に入られたクレアは、刑事に加えFBI捜査官が事情聴取に現れたことを不審に思い、夫のパソコン...もっと読む

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